お役立ち情報 2024

2024年12号(2024/3/28)

<タックスニュース>経営者保証  保証料の上乗せで不要に

 信用保証協会に支払う保証料を上乗せすると経営者保証が不要となる新たな制度が、3月15日にスタートした。社長個人が会社の債務の連帯保証人となる経営者保証は、中小企業の事業拡大や事業承継を妨げる一因になっているといわれる。新制度が経営者にとって助けになることが期待される一方で、保証料を上乗せしてまで解除する必要はないとの声もあり、どれだけ利用されるかは未知数だ。

 新制度は、信用保証協会が提供する債務保証に利用できる。条件となるのは、(1)過去2年間(法人の設立日から2年経過していない場合はその期間)に決算書等を申込金融機関の求めに応じて提出していること、(2)直近の決算で代表者への貸付金等がなく、かつ、代表者への役員報酬、賞与、配当等が社会通念上相当と認められる額を超えていないこと、(3)直近の決算で債務超過でないこと、または直近2期の決算で減価償却前経常利益が連続して赤字でないこと、(4)上記(1)と(2)については継続的に充足することを誓約する書面を提出していること――というこれら全てを満たした上で保証料を上乗せすれば融資時に個人保証を付けずに済む。

 上乗せする保証料は、(3)の要件の両方を満たすなら本来の保証料率に0.25%上乗せ、いずれか一方を満たすか法人の設立後2事業年度の決算がないなら本来の保証料率に0.45%上乗せとなる。また制度開始から3年間の時限措置として、上乗せする保証料の一部を国が補助する。

 日本の中小企業の4割が信用保証制度を利用しているが、そのうち7割で経営者個人が会社の連帯保証人となる「経営者保証」を提供している。経営者保証があると大胆な経営判断ができず、また債務を引き継ぐことになる後継者が尻込みするなど、中小企業の成長を妨げているとの指摘がかねてよりあった。今回の新制度でそうした不安を取り除き、生産性の向上につなげるのが国の狙いだ。

 ただ制度の実効性に懐疑的な声もある。銀行取引コンサルタントの上田真一氏は、「将来の万が一の不安を取り除くために保証料率を上乗せしてまで保証を外そうという経営者は少ないのではないか。また制度に特別なメリットを感じていない金融機関が率先して勧めることは考えづらく、周知がなかなか進まない可能性もありそうだ」と指摘する。

<タックスワンポイント>家賃にかかる消費税の注意点  居住か事業かで扱いが変わる

 賃貸物件にはアパート、店舗、事務所、倉庫などさまざまなものがあるが、どれも入居者がオーナーに賃料を支払うという点は変わらない。しかし税務の観点からみると、その物件が「居住用」か「事業用」かで、取り扱いは大きく変わる。

 物件が店舗や事務所など業務用であれば、入居者がオーナーに払う家賃には、必ず消費税が含まれる。家賃だけでなく、管理費、共益費、礼金の全てに消費税がかかることになる。

 一方、居住用のアパートやマンションの入居者が支払う家賃には、消費税が含まれない。管理費、共益費、礼金も同様で、これは「ただそこに住むだけ」なら収益が発生しないので、消費税の担税力がないとみなされるというのが理由となっている。

 しかし居住用物件であっても、入居者が払うお金すべてが消費税を含まない支払いかというと、そうではない。駐車場代、インターネット料金、鍵の交換代など、入居者が設備を利用したりサービスを受けたりするようなものについては消費税を含んだ料金を支払う必要がある。非課税となるのは、あくまで家賃の支払いに限られると認識しておきたい。

 なお賃貸オーナーが入居者から受け取るお金で気を付けたいのは、中途解約の違約金だ。契約期間の途中で入居者から解約の申し入れがあれば、オーナーは中途解約の違約金として数カ月分の家賃相当額を入居者から受け取ることがある。この違約金については、オーナーの逸失利益を補てんするために受け取るものなので、性質としては「損害賠償金」となる。損害賠償金には、消費税はかからない。一方、立退時の原状回復工事に、入居時に預かった保証金の一部を充てることがあるが、オーナーが原状回復工事を行うことは入居者に対する役務の提供に当たるので、工事費に相当する金額には消費税が課される。

2024年11号(2024/3/21)

<タックスニュース>クラウドサービスのコンカー  インボイス要件緩和を提言

 出張・経費クラウドサービスを提供しているコンカー(東京・千代田区)が、インボイス制度の要件緩和を求める提言を発表した。キャッシュレス決済を利用した経費精算で、インボイスの受け取りを不要にするべきと訴えた。

 橋本社長は、「日本は今後、労働人口の減少が懸念されている。人手が足りなくなっていく中で、経費精算のような付加価値を産まない業務を削減することは、日本として早急に取り組むべき重要な課題だ。日本の競争力強化、生産性の向上のために、私たちは要件緩和を目指し、関係各所の連携を進めていく」とコメントしている。

 インボイス制度の開始前は、キャッシュレス決済時に明細データが経費精算システムと連携していれば領収書の受け取りは不要だったが、制度開始後は明細データにインボイスに必要な情報の記載がないために、キャッシュレス決済時でも紙の領収書をもらう必要が出てきた。

 コンカーが行ったアンケート調査では、インボイス制度開始によりキャッシュレス決済時にも領収書をもらう必要が生じたことについて、経費管理者の85.4%と経費申請者の69.4%が「面倒になったと思う」と回答している。

 コンカーはインボイス制度による経費精算業務の負担を年間人件費に換算すると1兆4045億円になると試算しており、経費精算作業に費やす時間が増加することで、生産性が下がることを指摘した。

<タックスワンポイント>LED取替は性能アップでも損金可  「設備のなかの一部品に過ぎず」

 政府は環境政策の一環として、2030年までに国内の照明の全てをLEDにする計画を掲げている。経済産業省の統計によると、LEDランプの市場出荷額は323億円で、蛍光ランプやHIDランプを含む光源類市場全体の24%を占める(22年度)。

 旧型の蛍光灯を使っていた事業所が全てLEDに取り替えるとすると、ワンフロアでも数十万円の出費が必要だ。その購入費用について、一度に損金にできる「修繕費」か、資産の種類に応じて数年に分けて償却しなければならない「資本的支出」かは迷うところだろう。

 国税庁は修繕費を「資産の維持管理や原状回復のための費用」、資本的支出を「使用可能期間を延長させ、価値を増加させる費用」とそれぞれ定義付けているが、その線引きはあいまいな部分も多い。通常の蛍光灯をLEDランプに替えれば、節電効果や使用可能期間は一般的に向上するので、資本的支出の条件に当てはまるようにも見える。しかし国税庁のホームページ上の質疑応答事例では、LEDを「照明設備が効用を発揮するためのひとつの部品」と位置づけ、部品の性能が上昇したことをもって照明設備としての価値が高まったとは言えないという理由で、修繕費に該当するとしている。

 質疑応答事例の回答要旨では「節電効果や使用可能期間などが向上している事実をもって(中略)資本的支出に該当するのではないかとも考えられますが」と前置きした上で修繕費になるとしており、国税当局も判断に苦しんだ様子がうかがえる。一度に損金にできない資本支出とすると、国が推し進める普及方針に水を差してしまうという思惑があったのではないかと勘繰ってしまうのも、仕方ないかもしれない。

2024年10号(2024/3/7)

<タックスニュース>企業の“税の成績表”  国税庁が税務CG公表

 国税庁は2月21日、大企業に対して税務上のコーポレートガバナンス(企業統治)を高めるよう働きかける「税務コーポレートガバナンス」(税務CG)の実績を公表した。申告書の点検や面談などを通じた取り組みが企業の税務コンプライアンス向上に有効だとして、今後は対象企業を増やすことも検討するという。

 税務CGは、企業に対して税務調査を実施した際に、税務に関する会社の体制などを確認・判定し、国税局調査部長などが企業の経営責任者と面談して評価結果を伝達。その上で改善事項について意見交換するなどの取り組みを行う。いわば企業の“税の成績表”ともいえ、当局はこれを「協力的手法」と呼び、現在は資本金40億円以上の「特官所掌法人」500社を対象に行っている。

 今回公表された取り組みの実績によれば、2022事務年度には138法人に対して税務CGの判定を行い、31法人を「良好」、91法人を「おおむね良好」と判定した。一方、「改善が必要」も16法人あった。具体的な評価項目では、「経営責任者等の関与・指導」では74%を良好とする一方で、「税務に関する内部牽制の体制」や「税務調査での指摘事項等に係る再発防止策」では、良好と判定したのは3割に満たなかった。この2項目では改善が必要と判定された法人が4割弱に上り、多くの企業に足りていない部分だと当局が見ていることが分かる。

 当局はこれまでの実績を踏まえ、「特官所掌法人以外の法人であっても、税務CGの充実を通じて税務コンプライアンスの維持・向上を図ることが効果的」だとして、「対象法人拡大や対象法人の実情に応じた実施方法」を今後検討していくとしている。

<タックスワンポイント>老後見据えたリフォームで相続税対策  暮らしは快適に、評価額は7割に

 高齢社会化が進む中で、資産を次世代に継承するだけでなく、本人が満足する人生の閉じ方を考える“終活”の考え方が定着して久しい。人生100年時代とも言われ、老後の人生が数十年続くことが珍しくない現代では、高齢化に伴って身体能力が衰えゆく中で老後をどう快適に過ごすかは誰もが考えなければならないテーマだろう。

 住宅でいえば、若い頃に買ったマイホームがバリアフリー仕様になっていることはまず考えられない。都市部では3階建て住宅も多いため、年を取れば階段を上がるだけでもひと苦労だ。たとえ今は不自由なく暮らせていても、体のどこかが不自由になったとき、今と同じように住める保証はどこにもない。そうした問題を解決する方策として、自宅がより住みやすくなるよう、段差をなくしたり水回りを一カ所に集約したりするといったリフォームを施すことは一つの手段だ。

 老後を見据えた、言わば「終活リフォーム」のメリットは、慣れ親しんだ自宅に長く住み続けられるだけでなく、長期間にわたって高齢者施設に入ったり、住みやすいように自宅を一から建て替えたりするよりも、コストがかからずに済む点だ。また築10年を超える持ち家にバリアフリー化を進めるリフォームを行うと、家屋にかかる固定資産税の3分の1が1年間免除されるという税優遇もある。税優遇だけでなく、バリアフリーに向けた取り組みを支援する施策は自治体レベルでもあり、様々なサポートを受けることが可能だ。

 さらに終活リフォームは相続税対策にもつながる。建物にリフォームを施すと、国税庁は「リフォーム費用の7割分の価値が上昇したとみなす」という判定基準を用いている。つまり同じ500万円でも、現金のまま持っていれば10割評価されたものが、リフォーム費用として使うことで相続財産としては7割の350万円で評価される。住みよい住宅を手に入れられることに加えて、評価額を3割削ることができるわけだ。もしその家を子に相続するのであれば、リフォームの恩恵はそのまま子も受けられることになり、他のところで無駄遣いをするよりはよほど有効な相続税対策ではないだろうか。

2024年9号(2024/2/29)

<タックスニュース>自民党パーティー券問題の影響 「#確定申告ボイコット」がトレンドに

 自民党の派閥パーティー裏金事件による政治不信は、2月に始まった確定申告にも影響を及ぼしている。政治資金は原則として課税対象でなく、政治資金収支報告書への記載漏れがあっても書類を訂正すれば責任は問われない。一方で、国民の納税で過少申告があれば追徴課税される。SNSでは「#確定申告ボイコット」が一時的にトレンドワードになるなど、政治への不信感が高まっている。

 自民党はこのほど、2018年から22年までの5年間にパーティー券収入の還流(キックバック)のほか、中抜きによる収支報告書への不記載や誤記載があったかを調査。結果として不記載などは、清和政策研究会(安倍派)と志帥会(二階派)の議員らを中心に85人、総額は約5億8000万円に上った。

 政治団体がパーティーや寄付で集めた政治資金は、原則として課税されない。資金提供する側の政治活動の自由に加え、営利目的ではない政治活動に使うことが前提とされるためだ。ただし、議員本人の収入とみなされ雑所得に該当する場合は課税対象となり得る。国税庁は「政治活動に使われない政治資金の残高があれば、雑所得として課税対象になる」と説明する。

 野党は「何千万円もの裏金を受け取っておきながら、なぜ犯罪にならないのか。脱税が問えないのか」と国会で追及。鈴木俊一財務大臣は「国民がそうした怒りを持っていることは大変大きな問題。納税されている方に不公平な思いを持たれないよう丁寧な対応をする必要がある」と述べた。

 だが実態は、収支報告書で詳細は「不明」と訂正し、説明を逃れる書類が多い。ある自民議員は「口座に入れば他の金と峻別できず、私的に流用しても隠し通せる」と指摘。有権者から「1円単位で真面目に納税するのがバカらしくなった」と言われ慌てて説得したというが、「使途不明でも非課税と言われて、納得するほうが難しい」と国民の反発にも理解を示した。

<タックスワンポイント>歯の治療は保険外診療でも控除可能?  高いほど良いとはかぎらない

 歯医者に行って、もし虫歯が見つかれば治療ということになる。そこで「詰め物」の素材として使われるものには、金歯や銀歯の他にもジルコニアやセラミックなど高品質で見た目の美しいものも多く存在する。しかし、これらの高価な素材は原則として保険診療の対象にならず、全額が自己負担となってしまうのが難点だ。

 だが保険診療でなくても、医療費控除は使える可能性がある。医療費控除も保険診療と同様に「一般的に支出される水準を著しく超える治療費」は対象とならないと定められているが、その境界線は必ずしも保険診療と同じではないからだ。この点を勘違いしている人は少なくない。

 例えばジルコニアは歯の詰め物や被せ物に使われる素材で、白く硬く美しいことが特徴だ。このジルコニアを使った詰め物は保険診療にならず、全額が自己負担となる。しかし医療費控除については歯の治療材料として一般的に使用されていることから対象となるのだ。詰め物や義歯は一本数万円することもあり、医療費控除が使えるかどうかは大きな違いとなる。自由診療の対象だからといってあきらめずに歯医者さんに確認をするようにしたい。

 もっとも「高いものが良い」とは必ずしも言えないのが歯の世界だ。詰め物の素材には、それぞれ特色があり、人の持つ歯の悩みも様々。歯の状態や噛み合わせには個人差があり、人によっては詰め物の見た目よりも丈夫さが求められることもある。値段や税金にとらわれず、自分に最も合った素材を、信頼できる歯医者さんと相談の上で選ぶことが一番大事だ。

2024年8号(2024/2/22)

<タックスニュース>少子化対策「支援金」負担額  初年度は月300円弱

 少子化対策のために新たに導入される「支援金制度」の負担額について、加入者1人当たり月平均で2026年度は300円弱、27年度は400円弱になるという試算が明らかになった。政府は段階的に徴収する予定で、28年度は月平均500円弱と見込む。

 支援金制度は少子化対策の財源として、公的医療保険と併せて徴収する。初年度の26年度は6000億円、27年度は8000億円、28年度に1兆円を徴収する計画。政府はこれまで、加入者1人当たりの拠出額は、28年度に月平均で500円弱になるとの試算を示していた。ただし、所得や加入する医療保険によって負担額は変わり得る。低所得者や子育て世帯に対しては軽減措置も検討されている。

 少子化対策では3兆6000億円の財源が必要になる。政府は、徹底した歳出改革と既定予算の最大限の活用によって、財源の7割以上にあたる約2兆6000億円を捻出できると計算。残る1兆円を支援金制度として、国民や企業から徴収する。支援金制度が始まるまでは、つなぎ国債を発行して確保する。

 医療や介護などの歳出改革と賃上げを実施し、保険料などの負担を抑制して支援金制度を構築するため、政府は「実質的な負担は生じさせない」と強調してきた。岸田文雄首相は国会で「25年度以降は賃上げがないとしても、実質的に負担がない状況を実現する」と答弁。官邸幹部は「基本は歳出改革で、賃上げ効果がゼロになっても成立する支援金制度になっている」と話す。

 ただし制度をめぐっては与党内からも「分かりにくく、まだ説明が尽くされていない」との指摘がある。特に、支援対象でありながら一定の負担が懸念される子育て世帯への対応を中心に、丁寧な説明が求められている。

<タックスワンポイント>相続前後の預金引き出しは“争族”の元  民法改正で単独引き出し可能に

 2019年の民法改正で、相続人は各自の法定相続分の一定割合を、他の相続人の同意なく故人の銀行口座から単独で引き出せるようになった。引出額の上限は1つの金融機関当たり1人150万円までだ。

 税法上、死亡した被相続人の預貯金は相続税の対象となる財産だが、死亡の直前に多額の預金が口座から引き出され、それが被相続人の生活費や医療費など妥当な目的で使われていれば、その分は相続財産には含まれない。また一部の相続人が被相続人の死後に葬儀費用を負担した場合にも、その分は相続税上のマイナス資産として計算することができる。

 だが相続前後の預金引き出しで問題となるのは、なによりも相続人の間での、もめ事の種になることだ。相続では必ずといっていいほど家族間で争いが起きるとも言われるが、実際には同居していた長男夫婦などが家や預金の全てを相続し、葬儀も全て長男の責任で済ませ、弟妹たちには預金をいくばくかでも分けることで平和裏に終わることがほとんどだ。他の親族もそれを了承しているため、よほど資産家であるか、もしくはよほど仲が悪くなければ、もめることはない。

 だが、もし相続前後の預金引き出しが後に発覚すれば、それは火種となってくすぶることになりかねない。たとえ全てを承継する予定の長男であっても、多くのお金を動かすのであれば、相続人全員の了承を得て行うようにしたいところだ。

2024年7号(2024/2/15)

<タックスニュース>「外貨建て保険」販売過熱  元本割れリスクに警鐘も

 海外金利の上昇にともない円安が定着しつつある中、銀行窓口での「外貨建て保険」の販売が過熱している。保険機能と外貨での資産運用の両面をもつ一方、元本割れのリスクも相対的に高く、金融庁も警戒を強めつつある。

 外貨建て保険は顧客が支払った保険料を米ドルやユーロなどの外貨にしたうえで、欧米の債券などで運用する保険商品のことだ。通常の円建ての生命保険と同様、死亡時や病気により障害が残ったときなどに保険金が支払われる。

 2022年春以降に欧米の中央銀行でインフレ抑制のための金利の引き上げが進んだ一方、日本では日銀がいまだに金利を低く抑えたままだ。その結果、日本の円よりも金利の高い外貨で資産を運用した方が、利益が大きくなる傾向がある。実際、保険会社が顧客に約束する利回りは、円建て保険では1%程度だが、外貨建て保険の中では4%台の商品も珍しくない。超低金利下で本業の貸出で稼ぎづらい状況が続く銀行にとって、通常より高い手数料が得られる外貨建て保険は「渡りに船」の存在だ。金融庁によると、銀行窓口での販売額は22年度上期で1.2兆円と21年度下期の1.7倍に急増した。

 一方でリスクもある。保険の契約時から大きく円高に振れた場合、円で受け取れる保険金が減ってしまい、払い込んだ保険料を下回る元本割れに陥る。また、金利の動向によっては途中解約時の払戻金が減ってしまう契約もある。ある金融庁幹部は「退職金などを元本にした投資初心者の高齢者らは注意が必要」と語る。

 実際、販売窓口などには毎年1000件以上の苦情が寄せられている。銀行界では昨年、「仕組み債」と呼ばれる高リスク商品の不適切な販売で、千葉銀などが行政処分を受けたばかりだ。顧客への丁寧な説明よりも自社のノルマを優先する文化を見過ごせば、大きな不祥事にもつながりかねない。

<タックスワンポイント>補助金受給時に圧縮記帳で課税を回避  一時的な繰り延べは将来を見据えて利用

 補助金や火災保険金などを受けて固定資産を購入した際に、その購入価額から補助金の額を控除して購入価額とすることを「圧縮記帳」という。これにより補助金の益金の額が圧縮損の損金の額と相殺され、補助金分の課税負担が低くなる。

 補助金であっても税金を課すのが原則ではあるが、補助金は益金の額に算入されても、購入した固定資産は損金の額に計上されない。「収益増えて費用ゼロ」となれば、益金の額はほぼ法人税課税の対象となり補助金の効果が低下してしまう。そこで「圧縮記帳」という特例を設け、補助金への課税を一時的に回避して繰り延べることで、企業としてはきちんと補助金を設備投資に生かすことができるわけだ。

 ただし補助金ならば何でも圧縮記帳の対象になるわけではない。法人税法では圧縮記帳の対象となる補助金は国や自治体からのもので、受け取る法人は当該事業年度の固定資産取得などに使ったことなどの条件を限定している。また一般的に補助金というと「金銭」をイメージするが、金銭の代わりに固定資産そのものが国などから給付された場合も圧縮記帳の対象となる。

 なお圧縮記帳は課税を繰り延べるための会計処理であり、その年度の税負担を軽減する効果を持つものの、次年度以降に送っているに過ぎず、免税制度ではない点はよく覚えておきたい。つまり翌年以降は圧縮記帳分だけ課税が重くなるということだ。

 この繰り延べが表面化するのは、翌期以後の減価償却費計上時と資産の除却・売却時だろう。圧縮記帳をするということは、すなわち固定資産の取得価額を小さくすることを意味する。取得価額が減額されれば、その分減価償却額は小さくなり、将来の売却益や除却益は大きくなる。これらはすべて法人税などの増加に反映される。圧縮記帳は一時の節税にはなるものの、将来の節税を犠牲にするという側面を持つことに留意したい。さらに圧縮記帳は事務や経理の処理が複雑で面倒であることも踏まえ、補助金を受け取ったときは圧縮記帳を利用するか、慎重に検討したほうがよい。

2024年6号(2024/2/8)

<タックスニュース>自民党“裏金”問題  野党側は「脱税」を指摘

 元日の能登半島地震を受け、被災地支援策の議論が急がれるが、国会は自民党派閥を巡るパーティー券問題で紛糾している。ノルマを超えた売り上げの還流分が4000万円超の議員のみが立件される軟着陸となったためだ。野党はこの「裏金」を受けた議員と受領額リストの提示を求めたほか、「脱税だ」と攻勢を強める。税制上問題はないのか。

 国税庁によると、個人が受け取った政治資金は「雑所得」に当たり、最大55%の所得税・住民税が課される。岸田文雄首相は1月29日、衆院予算委の集中審議で「雑所得の収入として取り扱われ、そして収入額からの必要経費を控除した後、残額がない場合には、課税関係は生じない」と説明した。

 雑所得は不動産の売却益やサラリーマンの副業収入など他の所得に当たらない所得を指す。政治資金パーティーは利益率が約9割に達することもあり、必要経費は、場代や人件費、飲食料品などに限られ、課税所得が残らなければ開催する意味がない。

 本来は、雑所得を得るための必要経費を差し引いた残額に課税される。しかし、鈴木俊一財務相は昨年12月の参院予算委で「政治活動のために支出した費用の総額を差し引いた残額が課税の対象となる」と答弁。通常の必要経費に加えて、他の政治活動に使った費用を差し引くことができ、政治資金の特別扱いを認めたことになる。

 東京地検特捜部が立件したのは、還流分を政治資金収支報告書に記載しなかった政治資金規正法違反(虚偽記載)だった。報告書に記載されるのは、政治団体間の政治資金のやりとり。複数の税法の専門家は、今回の還流分は「政治資金ではない」とし、議員個人が修正申告する必要があると指摘する。

 政治団体間の寄付は現行法上、法人税が非課税となり、報告書を修正すれば「おとがめなし」となる。自民党安倍派の事務総長経験者ら幹部7人は修正申告し、1月26日に不起訴となった。岸田派も約2500万円の不記載があったが、立件されたのは元会計責任者のみ。不記載のあった派閥は相次いで報告書を訂正。岸田首相は岸田派から「事務的なミスの積み重ねが原因」と報告を受けたと自身の責任を棚上げにした。

 「収支報告書の訂正で、自民党の政治家が脱税しようとしている」。立憲民主党の小西洋之参院議員は1月29日の予算委で、岸田首相にこう詰め寄った。岸田首相は、報告書不記載の責任が会計責任者のみに問われないよう 「連座制の導入」に触れた。公明党が提案する政策活動費の使途公開の義務化も必要だ。

 税金が原資の政治資金は、国民が納得できるようにさらなる透明化が求められている。

<タックスワンポイント>確定申告での雑損控除のポイント  「原状回復」って具体的にどんなこと?

 自然災害により被害を受けた人は、確定申告の際に「雑損控除」を適用することで損害分を所得から差し引くことができる。雑損控除は、自然災害で住宅や家財に損害を受けた時に、本人または生計を一にする親族を対象として、「損害額から保険金や損害賠償金を差し引いた金額-所得の10分の1」か「損害額のうち、被災後の取り壊しや土砂除去などにかかった費用-5万円」のうち、多いほうの金額を差し引けるものだ。

 控除の対象となる金額は、地震で壊れた家財や、水害で流出してしまった現金というような直接的な被害だけではない。壊れてしまった家屋の再建費、泥の除去費用、ガレージの修繕など、災害に遭う前の状態に戻すための費用も幅広く含まれている。雑損控除の適用を受けるためには、確定申告書に被害額などを記載し、併せて災害のための支出を証明する領収書などを添付すればよい。

 注意点として、壊れた家をせっかく修理するのだからと元の状態より良いものにアップグレードしてしまうと、その部分については雑損控除の対象とはならないことだ。国税庁のQ&Aでは、「被害を受けた住宅等について行う原状回復のための修繕費用は雑損控除の対象となります」とする一方で、「被災直前よりその資産の価値を高め、その耐久性を増すための支出と認められる部分については、雑損控除の対象となる損失の金額には含まれません」と答えている。

 これは会社の税務申告でもたびたび判断に悩む、修繕費と資本的支出の話と本質は同じだ。ただし会社の場合、資本的支出とみなされた部分についても長年にわたって損金算入していくことが可能だが、個人は事業者でない限り減価償却の仕組みはないため、何の税制上の措置も受けられない。今後生活していくために必要ならいいが、「どうせ雑損控除で税金が戻ってくるだろう」などと思いこんで高価なリフォーム工事を実行してしまうといらぬ出費になる可能性がある。

 なお結果的に資産価値を高める工事をしたとしても、そのなかに原状回復部分が含まれていることもあるだろう。このように原状回復部分と資産価値を高める部分の区分が難しい時には、その工事費用の総額のうち3割を原状回復、7割を資産価値を高める部分として申告することが認められている。

2024年5号(2024/2/1)

<タックスニュース>ビル・ゲイツ氏「最も裕福な我々に課税を」  「富裕税」導入を提言

 マイクロソフト社の共同創業者で慈善事業家のビル・ゲイツ氏が、世界経済フォーラムで富裕層への増税を訴えた。ゲイツ氏はこれまでもたびたび富裕層がより税負担を課されるべきと主張してきたが、「現在に至るまで増税が進んでいないことに驚いている」と述べ、不平等の是正に自身を含む富裕層の財産が使われることを望んだ。

 1月19日までにスイスのダボスで開催された世界経済フォーラムでのパネルディスカッションで、ゲイツ氏は富裕層への課税および、先進国から発展途上国への寄付金の増額を提案した。「国であれ企業であれ個人であれ、最も多くの財産を持っている人々はもっと寛大になるべきだ」と述べた。ゲイツ氏によれば250人以上の超富裕層が賛同し、世界の指導者たちに向けた富裕税を課すように求める公開書簡に署名したという。書簡では、「富裕層に課税したとしても、彼らの子どもたちから財産を奪うことにはならないし、彼らの生活水準を根本的に変える」こともないとも記されているという。

 ゲイツ氏が“富裕税”を提言するのは、今回が初めてではない。2018年には、当時の米トランプ政権が作成した税制改革案について、「中間層や低所得者層に比べて経済的に恵まれている人のほうが劇的に多くの恩恵を受ける」と批判し、「私は他の誰よりも多い額を米国政府にこれまで納税してきた。だが政府は私のような立場にいる人々に対し、さらに高額な税金を課すべきだ」と語ったことがある。

 ゲイツ氏は慈善事業家としても知られ、22年には慈善基金団体に約2.7兆円を寄付した。元妻のメリンダ氏と合わせた生涯寄付額は7.4兆円を超え、著名投資家のウォーレン・バフェット氏を超えて史上最大の“慈善家”となっている。

 国際NGOのオックスファムの調べによれば、コロナ禍の約2年間で世界の99%の人が収入を減らした一方で、世界で最も裕福な10人の資産は倍増したという。

<タックスワンポイント>詐欺の被害は税金では救済されず  確定申告期に“ニセ国税”が多発

 毎年、確定申告の時期に増えるのが、税務署員を装って現金自動預払機(ATM)に現金を振り込ませる「振り込め詐欺」だ。言うまでもなく、国税局や税務署が金融機関の口座を指定した上で税金の振り込みや還付金の支払いのためにATMの操作を求めることは絶対にないが、近年では現金を直接狙うだけでなく、勤務先や取引銀行の情報を問い合わせる事例、未公開株や社債の取り引きに関連して銀行の口座情報を聞き出そうとする例など、さまざまな被害が報告されている。

 また電話だけでなくメールによる詐欺も増えているほか、振り込め詐欺の手口は複数人がそれぞれ税務署、警察、金融機関を装うなど巧妙さを増していて、見抜くのがますます難しくなっているという。「自分だけは大丈夫」などと自信を持たず、何事も疑ってかかる心構えが求められていると言えるだろう。

 覚えておきたい知識として、本物の税務職員が税務調査や滞納整理を行う時には、必ず顔写真のある身分証明書を携帯している。少しでも怪しいと思ったときには身分証明書の提示や、税務署への直接問い合わせによる確認をすべきだ。仮に本当に税務署からの連絡であったとしても、一度「顧問税理士に相談して折り返し連絡します」と答える習慣をつけておくことも、詐欺被害の防止には役立つはずだ。

 もちろん振り込め詐欺の手口は税務署を名乗るものだけではない。過去にあった事例では、長男を名乗る電話で「確定申告があって税務署に3千万円払わなければいけない」、「頭金が今日中に必要」などと伝えられた女性が、自宅まできた男に現金150万円を渡してしまったという。

 詐欺ばかりは、いかに税理士が有能であろうとも、納税者本人が気を付けていなければ防ぐことはできない。また詐欺の被害は盗難などと異なり、雑損控除などの税の救済手段も適用されない。詐欺に引っ掛かったのは本人のミスだからという容赦のない理由だ。

 詐欺の手法は年々新しく、また高度化しているため、重ねて言うが「自分だけは大丈夫」と思い込まず、不審な点がなくても必ず家族や顧問税理士、あるいは警察などに確認することを心掛けたい。

2024年4号(2024/1/25)

<タックスニュース>ガソリン税「被災地復旧に不可欠」  トリガー条項が再び議論に

 ガソリン税の上乗せを停止する「トリガー条項」の凍結解除を巡り、国民民主党が能登半島地震の被災地復旧のためにも「ガソリンの値下げが不可欠」との認識を示している。ただ、駆け込み需要や終了前の買い控えに伴う物流の混乱や制度の技術的な問題などが懸念材料となっている。価格高騰対策の補助金が切れる4月末までに結論を出す見通し。

 国民民主党の玉木雄一郎代表は1月15日、石川県かほく市など金沢市周辺の被災地を視察。翌16日の記者会見で「補助が入っているにもかかわらずやっぱり高い。復旧復興の事を考えても、特に地方はただでさえガソリンが手に入らない。復旧復興を進めるためにも、ガソリン値下げは不可欠だ」と述べた。

 トリガー条項は、2010年に旧民主党政権が創設した。ガソリン税は1リットル当たり53.8円だが、ガソリンの全国平均小売価格が3カ月連続で同160円を上回った場合に25.1円の上乗せを止める。軽油にかかる軽油引取税も17.1円を同様に止める仕組み。11年の東日本大震災の復興財源を確保するため、発動せずに凍結されたまま現在に至る。

 資源エネルギー庁によると、ガソリンの店頭価格は1月9日時点で1リットル当たり175.5円で、前週より0.5円上がった。政府は22年1月以降、計6兆円超の補助金を投入し、今年4月末までの延長も決めている。現行の補助率は同185円超なら全額、185円以下なら60%となっている。

 トリガー条項の凍結解除は現在、自民、公明、国民民主の3党が立ち上げた「原油価格高騰・トリガー条項についての検討チーム」で議論されている。12日に開かれた、実務者級の初会合では、トリガー条項の凍結解除が見送られた22年4月までの検討内容について、発動時の買い控えや解除前の駆け込み需要による混乱、ガソリン製造業者と販売業者が税金を還付したり追加で支払ったりする実務上の負担増など懸念材料への認識を共有した。

 今後の検討課題となる項目で、国民民主党から出席した礒崎哲史参院議員は会合後、「まず実務ベースとして元々あった課題を進めていく。加えて、能登半島の災害への対応も加えた形で議論を進めていくところまで確認した」と語った。一度は見送られた議論が震災の影響でどう変化するのか注目が集まっている。

<タックスワンポイント>国税当局も注視するメルカリ所得  税務調査は1年間で約500件

 メルカリやヤフオクといったネットオークションの市場規模は、経済産業省の調査によれば1兆円を超えるという。雑貨や古本だけでなく貴金属や自動車などの高級品が売られていることも珍しくなく、捨てるよりマシとネットオークションを利用して不要になった日用品を売った経験のある人も少なくないだろう。近年ではスマホアプリなどから簡単に売買のやり取りができる気軽さもあり、その市場規模は拡大し続けている。

 ネットオークションであろうがフリーマーケットであろうが、一定の儲けが出ているのなら確定申告を行い、所得に応じた税金を納めなければならない。ただし例外もあり、実際にはネットオークションで出品者となった経験のあるほとんどの人が以下のルールに該当するはずだ。

 「資産の譲渡のうち、家具、じゅう器(家庭用の道具)、通勤用の自動車、衣服などの生活に通常必要な動産の売却については、所得税を課さない」

 つまり日用品の処分としてオークションを使っている分には、それがいくらで売れようが、所得税を課されることはない。ただしオークションで売ることを前提として商品を仕入れたり、継続的に物を売って利益を得たりしていると、税務署から指摘される可能性はないとは言えない。なお「貴金属や宝石、書画、骨董(こっとう)など、1個あるいは1組が30万円を超えるもの」の売却は譲渡所得が発生するという規定もあるので、家にあるものなら何でも非課税というわけではないことを覚えておきたい。

 気になるのは、原則として非課税である通勤用の車が、金額基準の30万円を超える額で売れた時はどうなるかということ。そこは30万円超であっても通勤用のマイカーであれば非課税だが、フェラーリやベントレーといった高級車であれば通勤用に使っていたとしてもぜいたく品として課税する、という運用がされているようだ。

 市場が大きくなるということは、そこに“儲け”があることを意味するわけで、ネットオークションによる所得には課税当局の目が光っていることも忘れてはならない。各国税局にはインターネット取引を担当する「電子商取引専門調査チーム」という専担部署があり、メルカリやヤフオクといったネットオークションで生じた所得を捕捉しようと日々監視を続けている。2022年度には、ネットオークションやネット通販取引などを対象に472件の税務調査が実施された。

 もっともメルカリなどで日常的に利益を上げていても、よほどの“人気業者”でなければ税務調査が動くことはなさそうだ。ネットオークション絡みで税務調査を受けた人の1件当たりの申告漏れ所得額は1508万円だという。

2024年3号(2024/1/18)

<タックスニュース>大谷選手の“節税契約”を批判  「税制に著しい不均衡が生じる」

 大谷翔平選手が米大リーグのロサンゼルス・ドジャースと結んだ契約について、同球団が所在するカリフォルニア州の会計監査官が「税の公平な分配を妨げている」との声明を発表した。年俸の大部分を後払いにすることで税負担を減らせる現行制度を問題視し、連邦議会に対策を取るよう呼びかけている。

 大谷選手がこのほどドジャースと結んだ総額7億ドルの契約は金額も異例だが、さらに話題を呼んだのが、その支払い方法だ。年俸のうち約97%を後払いにすることで、ドジャースは年俸総額に応じて課される「ぜいたく税」を軽減し、大谷選手自身も支払い開始前に別の低税率の州に転居することで所得税負担を抑えられる。

 発表当初は米国内でも「節税面で優れている」と評価された今回の契約だが、それに「待った」をかけたのが、税収が減ることになるカリフォルニア州だ。同州の会計監査官マリア・コーエン氏は1月8日(日本時間9日)、『大谷選手の契約についての声明』と題した文章を発表し、「現行の税制では、最高税率にあたる幸運な人々に対して無制限の延期が許されており、税制において著しい不均衡が生まれている」と批判したとロサンゼルスタイムズ紙が報じた。

 カリフォルニア州は米国内でも高い税率で知られ、もし大谷が11年目以降に他の州に移住した場合、失われる税収は約9800万ドル(約142億円)に上る。毎年、州に入らなくなる所得税の額は、21年の納税者の下位178万人分に相当するという。

 コーエン氏はこうした振る舞いへの制限がないことが「所得の不平等を悪化させ税の公平な分配を妨げる」と指摘し、連邦議会に対し、不均衡の是正のため速やかに思い切った対策をとるよう求めた。

<タックスワンポイント>もしもの備え、マンションの地震保険  住民同士の修繕合意は困難

 能登半島で起きた大地震をきっかけに、自分の家が加入している地震保険をチェックする人が増えている。そもそも自宅が分譲マンションなのであれば、マンションの管理組合が多額の資金が必要になる大規模修繕に備えて計画的に修繕費を積み立てているのが一般的だ。この修繕積立金が十分でない状態で地震などの被害を受ければ、金融機関の融資を受けるか、所有者がお金を出し合って修繕資金を工面しなくてはならなくなる。

 そこで万が一に備えて加入するのが「地震保険」というわけだ。分譲マンションでは、専有部分は住民が個々に加入し、一方でエレベーターや付属設備などの共有部分については管理組合で加入することとなる。一般的な地震保険では、損害率3%以上20%未満の「一部損」の支払額は契約金額の5%、20%以上40%未満の「小半損」は30%、40%以上50%未満の「大半損」は60%、50%以上の「全損」で100%となっている。

 ちなみに東日本大震災で甚大な被害を受けた宮城県での地震保険加入率は全国で2番目の高さだったが、それでも加入率は32.7%であり、多くの人が補修費用をまかなえずにあきらめざるを得なかった。

 実情として、マンションの区分所有者によって懐事情はそれぞれだ。すでにローンを支払い終えている人もあれば、まだ数十年支払いが残っている世帯もある。修繕にかかるコストが大きくなれば、費用負担の合意形成も難しくなる。いざというときのために地震保険への加入を考えておきたい。

2024年2号(2024/1/11)

<タックスニュース>国税庁は前年度から予算が微減  税制改正経費は27%増

 政府が12月22日に閣議決定した2024年度予算案で、国税庁の予算は前年度比で4%弱の微減となった。納税者サービスのための「納税者利便性向上経費」や、税務大学校経費、国税不服審判所経費などが前年度より減少した。

 国税庁の24年度予算は6170億300万円で、23年度当初予算の6416億5200万円から246億4900万円マイナスと3.8%減った。納税者利便性向上経費が前年度比2.6%減、職場環境整備・安全対策経費が同7.6%減と減ったことなどが影響した。一方、前年に比べて増加したのは、国際化対策経費、庁局署一般経費、税制改正関係経費などだった。特に税制改正関係経費は前年から26.8%の大幅増となった。

 なおこれらとは別に、23年度補正予算で、インボイス制度に関する相談支援の強化に4億円、定額減税相談支援として17億円、日本産酒類の海外展開を支援する事業経費として14億円が措置されている。

 人員面では前年から1176人を増員する一方で、定員合理化によって1140人を削減。24年度の定員は5万6380人で、前年度より36人の増加となった。

 役職で見てみると、国際的な租税回避への対応などのために国税庁に「国際徴収調整官(仮称)」を設置する。また経済取引のデジタル化に対する調査・徴収のために東京国税局に「査察情報技術解析課(仮称)」を新設する。そのほか各地の国税局に国際税務専門官や情報技術専門官を増員する。

 さらに20年にスタートした、税務署間の照会事務などを統括する「業務センター室」の機能を拡充するため、各国税局に「統括国税管理官」、「主任国税管理官」を大幅増員する。

<タックスワンポイント>認知症の母が不動産を売るのに必要な後見人  本人のために法律行為を代行

 認知症の母の生活費が足りなくなったので、母名義の不動産の売却を検討している。しかし認知症によって意思能力がないと判断されてしまうと、不動産売買契約を結んでも無効となってしまう。ではこの不動産はどうやっても売却できないのだろうか。

 このようなケースでは、家庭裁判所に「成年後見人」を選任してもらうことで、代わりに売買契約を締結することが可能だ。

 不動産売買契約などの契約が有効とされるには、契約の当事者に判断能力(意思能力)があることが前提だ。認知症と診断されると本人に意思能力がないとされてしまい、財産を処分できない。そのため認知症になってしまった人の不動産を売却するには、代わりに財産管理をする成年後見人の選任手続きを家庭裁判所で行う必要がある。

 成年後見人は、本人に代わって財産管理や介護施設入所への契約、また遺産分割の協議などを行う。成年後見人は3つに分類され、本人に判断能力がまったくないなら「後見」、判断能力が著しく不十分なら「保佐」、判断能力が不十分なら「補助」となる。後見人になれるのは親族のほか、弁護士、司法書士、社会福祉士、法人、市区町村長など多様だ。成年後見制度の申し立てることができるのは、本人や配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、検察官、市区村長などとなっている。

 高齢社会化に伴い、認知症患者は増える一方だ。そのぶん、成年後見制度の重要性も増すばかりだが、同制度の持つ独特の硬直性が課題との指摘もある。成年後見制度では後見を受ける人の保護を図ろうとするあまり、後見人が動かせる財産の裁量が細かく規制されている。原則的に本人の財産が減少する可能性のある投資や運用はできず、他者への生前贈与などもできない。あくまで「財産を維持しつつ本人のためになること」にしか財産を動かすことはできず、たとえ相続対策や会社の経営のために必要な取引であっても相当の困難を伴うという短所がある。

 制度の硬直性については国も認識しているのか、2016年には後見人の権限拡大を認める促進法が施行されている。これにより被後見人あての請求書などの郵便を直接開封でき、被後見人の死亡後、相続人に引き継ぐまでの債務弁済なども行えるようにはなった。

2024年1号(2024/1/5)

<タックスニュース>常滑市が宿泊税  東海3県で初導入

 愛知県常滑市が、旅館やホテルなどの宿泊者に課税する「宿泊税」を導入する方針を固めた。市によると宿泊税を徴収するのは静岡、愛知、三重の東海3県で初めてとなる。2024年3月に市議会に条例案を提出し、25年1月からのスタートを目指す。

 同市には中部国際空港近くのホテルをはじめ、37の宿泊事業者が存在し、計約4300室、7700のベッドを備えている。宿泊税は、観光の街づくりの財源に活用する目的で宿泊者1人1泊につき一律200円を徴収するという。1年間で約100万人の観光客から、総額2億円ほどの税収を見込む。宿泊税により増える財源は、空港と市街地を結ぶシャトルバスの運行といった観光施策に活用する。

 宿泊税は地方税法に基づく法定外目的税で、総務相の同意を得て開始する。近年のインバウンド需要の高まりを受け、全国で宿泊税を導入する動きが活発化している状況だ。すでに東京都や京都市、金沢市などが導入している。

<タックスワンポイント>元日に切り替わる相続税路線価  ちょっとの時間差で税負担激増も?

 毎年、年が明けるたびに税の世界に訪れる変化の一つが「路線価」だ。土地の相続財産としての価値は、国税庁が毎年7月に発表する「相続税路線価」によって算定される。路線価は毎年1月1日時点での一定の範囲内の道路(路線)に面した土地を評価するものなので、つまり土地の相続税評価額は、死亡した年の元日の値段によって決められる。2024年の1月1日から12月31日までに発生した相続については、「24年の元日の値段」が適用されることになる。

 ここで疑問に思うのが、その年の路線価が発表される前、例えば2月に相続が発生すると、評価額をどのように算出して相続税を納めればいいのだろうか。

 この場合、例えば一つのやり方として、国土交通省の発表する「公示地価」から路線価を「推測」するということが考えられる。公示地価は土地取引の基準などになる土地の値段で、毎年3月に公表されるため、路線価より約4カ月早く地価変動の動向を把握することが可能だ。公示地価の前年からの変動率を前年分の路線価に掛けわせることで、おおよその相続税路線価を割り出せば、とりあえずの遺産分割協議をまとめることはできるだろう。

 しかしこの概算評価はあくまで暫定的なもので、今年発生した相続には今年分の路線価を適用するというルールに変わりはない。7月になって正確な路線価が発表されれば、それに合わせて遺産分割協議を修正し、申告も今年の路線価を使って行わければならないわけだ。もし先走って概算評価のまま申告していれば、当初申告額との差に応じて更正の請求なり修正申告なりを行う必要が生じてしまう。あくまで税の申告自体は7月の路線価発表を待つのが賢明だろう。

 ちなみに年をまたいでの路線価の切り替わりを巡っては、大晦日のうちに亡くなったのか新年に亡くなったかで、相続税に大きな差が出るケースも考えられる。過去には、元日の朝にお風呂になくなっているところを発見された女性の相続について、「故人は紅白歌合戦を見た後に除夜の鐘を聞いてから入浴する習慣があった」と主張して国税と争った遺族もいたという。