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2024年28号(2024/7/25)

<タックスニュース>札幌不服審に税理士が嘆願書  「存在意義が問われている」

 札幌国税局に不当な課税を迫られたとして損害賠償を求めている複数事業者の顧問税理士が7月5日、札幌国税不服審判所に、「審判官の職権によりきちんと事実関係の調査確認をしていただきたい」などとする嘆願書を提出した。国税当局の調査を「明らかに“足りていない部分”がある」と断じている。

 嘆願書を提出したのは税理士法人Impact(名古屋市中区)の大箸直彦税理士。審判官に適切な事実確認を求めたうえで、「そのために審理期間が長期化するのはやむを得ない」と覚悟を示し、「『納税者の正当な権利利益の救済と税務行政の適正な運営』という審判所の使命を踏まえ、正義の理念と公正中立な立場により、きちんとした『税務行政部内の最終判断』を下して頂きたいと願っております」と結んでいる。

 大箸氏が顧問税理士を務めた事業者は、当局が2種類の追徴税額を書面で示し、税理士を排除しなければ高い方の税額になると脅されて税理士の排除を求められたという。「2種類の税額」には9500万円もの差があったとされる。

 当該事業者は、前任の税理士が担当していた時期に、課税逃れのために所得を過少に申告している。その点について大箸氏は「原処分庁の調査により発覚して以降、審査請求人は猛省し、全ての事実を明らかにして、原処分庁による申告所得の把握に協力してまいりました」と事業者の姿勢を擁護したうえで、「そうであったにもかかわらず、原処分庁は、証拠資料等の検討を十分に行わず、事件の全容を把握しようとせずに、一方的な更正処分を行いました」「当初申告が不正だったからと言って、原処分庁自らが、適正な所得把握を放棄して、何をやっても良いわけではありません」と国税当局の姿勢を糾弾している。

 不服審判所にはさらに、「本審査請求案件につきましては、権利救済機関としての『国税不服審判所の存在意義が問われている』と考えています」と訴えかけている。

<タックスワンポイント>早期退職者一時金の税務処理  名前は異なっても退職所得扱い

 社会環境の変化やグローバル競争の激化などにより、大企業でも終身雇用の体制から脱却するケースが増えている。かつては「入れば安泰」と言われていたような上場企業が数千人規模の早期退職希望者を募るのも今では珍しくない。

 人件費の削減や社内人材の若返りを目指して早期退職者を募る場合、長年の恩に報いるべく、希望者に対して退職金とは別に特別加算の一時金を支給することが考えられる。この一時金の税務上の取り扱いはどうなるのか。

 会社が従業員に支払うお金には、大きく分けて「給与所得」と「退職所得」の2つがある。給与所得とは、給料や賞与の性質を持つ金品を指し、金銭で支払われるものだけでなく、物や権利などのいわゆる現物給与も含まれる。一方の退職所得とは、退職手当や一時恩給といった「退職により一時に支払いを受ける一切の給与」を指す。

 早期退職希望者に対する特別加算の一時金は、早期退職を優遇する制度の適用を受けて退職する人に支給されるもので、まさに「退職により支払いを受ける給与」に他ならない。つまり通常の退職金と同様に「退職所得」として取り扱うこととなる。その際には、会社に源泉徴収の義務が生じることも忘れないようにしたい。

2024年27号(2024/7/18)

<タックスニュース>金融庁長官に井藤氏  「資産所得倍増」政策を加速

 7月5日付で金融庁長官に井藤英樹企画市場局長が昇格した。栗田照久長官は就任から1年での退任となった。首相肝煎りの「資産所得倍増」を加速的に推進していくため、マーケット活性化に向けた政策立案の司令塔だった企画市場局長を長官に据える。今回のトップ人事の背景には、NISAなど金融商品の積極的な普及・浸透に取り組む“強力布陣”とする狙いがあるとみられる。井藤英樹(いとう・ひでき)氏は昭和39年生まれの59歳。岡山県出身、東大法卒。昭和63年大蔵省入省、平成6年国税庁札幌国税局旭川東税務署長、同18年財務省大臣官房 文書課広報室長、同24年金融庁監督局銀行第二課長、同27年総務企画局政策課長、令和2年総合政策局政策立案総括審議官、同4年企画市場局長、同6年7月金融庁長官就任。

<タックスワンポイント>優先的に物納できる登録美術品制度  相続税の特例 国宝級であれば…

 相続税を納めたくても手元に現金がなければ、納税を先延ばしにする「延納」か、延納でも納税が困難なら金銭の代わりにモノで納税する「物納」の適用が可能だ。物納には財産ごとに優先順位があり、不動産、証券、株式が上位で、動産はそれらの財産がない時に限り物納が可能となる。ただし例外として、動産でも「登録美術品」に限っては最優先で物納することができる。登録美術品制度は、重要文化財や国宝のほか世界的に優れた美術品を国が登録する制度で、登録された作品は国が指定した美術館で公開される。相続財産の中に登録美術品があれば、ほかの美術品と異なり、国債や不動産と同じ順位で物納できる。ただし相続が発生してから登録申請するのでは、物納の優遇制度は適用できず、生前に登録を受けていなければならない。ちなみに美術館で公開中の登録美術品には、クロード・モネの絵画「ルエルの眺め」(埼玉県立近代美術館)、ウジェーヌ・ブーダンの絵画「ノルマンディーの風景」(同)、米原雲海の彫刻「清宵」(東京国立近代美術館)などがある。いずれも国宝級のものばかりで、数十万円で購入したような美術品では登録は不可能のようだ。

2024年26号(2024/7/11)

<タックスニュース>日本公認会計士協会  「税制改正意見書」公表

 日本公認会計士協会(茂木哲也会長)はこのほど開催した常務理事会で「令和7年度税制改正意見書」を承認、公表した。意見書は税制の在り方に関する提言」と「令和7年度税制改正に関する個別意見」の二部構成となっている。第一部の「税制の在り方に関する提言では、社会的課題への対策について税制の観点から提言。第二部の「令和7年度税制改正に関する個別意見」は8項目からなる「政策意見」と、税制の個別規定に関する83項目の「個別税制に関する意見」に分けて意見表明している。重点項目としては、(1)起業家を多数輩出するための「人」への投資である教育資金の拡充、成長企業の担い手である高度人材の確保、スタートアップの成長促進を後押しする税制を構築すること、(2)昨今の急速な経済社会環境変化に伴う税法における金額基準等の見直し、(3)中小法人の画定基準を見直すこと、(4)取引相場のない株式等の評価について、(5)外国子会社合算税制における経済活動基準を我が国企業の経済活動の多様化に合わせて見直すこと。外国子会社合算税制における外国関係会社の所得の合算時期を「外国関係会社の事業年度終了の日から2か月を経過する日を含む事業年度」から「4か月を経過する日を含む事業年度」とすること――を掲げている。

<タックスワンポイント>高額納税者のふるさと納税 恩恵と注意点  返礼品にも税金はかかる

 ふるさと納税は、高所得であればあるほど得をする。その理由は「寄付上限」の仕組みにある。同制度では、自分の住む地域以外に寄付をすると、手数料2千円を差し引いた残額が本来住んでいる土地に納めるべき住民税などから差し引かれる。差し引かれる額には上限があり、住民税のうち所得割額の20%を超えた寄付は、何の税優遇も受けられない純然たる寄付となってしまう。仮に寄付上限100万円の人が満額を寄付したとすると、99万8千円分は本来自分が納める税額から差し引かれることになる。この「2千円負担」は所得にかかわらず一律なため、2千円を引いた額が多い、つまり所得が多い人ほど税金と相殺できる額も多い。そして寄付金額の多寡を問わず寄付者の実質負担は2千円で変わらないが、寄付金額が高ければ高いほど「返礼品」の内容は豪華になる。これが高所得者こそがふるさと納税制度の恩恵を最大限に受け取れる理由だ。ただ高額納税者は、返礼品の税金に注意を払わなくてはいけない。ふるさと納税の返礼品は、所得税の対象となる。税金がかかる境界線は50万円で、受け取った返礼品の価値が50万円を超えるなら所得税が課される。

2024年25号(2024/7/5)

<タックスニュース>「骨太の方針」中小企業の“稼ぐ力”  事業承継・M&A・廃業支援で実現!?

 経済財政諮問会議と新しい資本主義実現会議は6月21日、首相官邸で合同会議を開き、「経済財政運営と改革の基本方針」「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画改訂版」について議論。いわゆる「骨太の方針」を取りまとめ、同日、閣議決定した。

 首相は会議のとりまとめ発言で「経済・財政新生計画に基づき経済・財政・社会保障を一体とした改革を進めていく。『経済あっての財政』の考えのもと2025年度の国・地方のプライマリーバランス黒字化と、債務残高対GDP比の安定的な引き下げを目指し、経済再生と財政健全化を両立させる歩みを前進させる。骨太の方針については予算編成や制度改正で具体化し速やかに実行していく」と述べた。  

 骨太の方針では、「豊かさを支える中堅・中小企業の活性化」を重点課題のひとつに据え、(1)人手不足への対応、(2)中堅・中小企業の稼ぐ力、(3)輸出・海外展開――の3テーマへの取り組みを強化していくとしている。

 「中堅・中小企業の稼ぐ力」をテーマとした取り組みとしては、(1)譲渡担保契約と所有権留保契約に関する法制化の準備、(2)事業承継・M&Aの環境整備、(3)事業承継税制の特例措置の「役員就任要件」の見直し検討、(4)第三者への承継を促進する税制を検討、(5)M&A仲介事業者の手数料体系を開示、(6)M&A成立後の実施企業によるPM(ポスト・マージャー・インテグレーション)や設備投資を促進、(7)地域金融機関に対しPMIを含めたM&A支援強化を促進、(8)金融機関が中小企業に対し事業承継やM&Aに関するコンサルティングを行う際に経営者保証の解除に向けた方策を提案、(9)事業再構築・M&A・廃業等について地域の支援機関が連携する相談支援体制を構築、(10)地域経済を牽引する中堅企業や売上1百億円以上への成長を目指す中小企業について関係省庁が連携するビジョンの策定と地方公共団体による支援体制を構築し設備投資やM&A・グループ化等を促進――など、事業承継・M&Aと廃業支援に関するものが中心。骨太の方針では、こうした取り組みによって中小企業の“稼ぐ力”をサポートしていくとしている。

<タックスワンポイント>出生していない胎児が有する相続の権利  分割協議は出生後が一般的

 民法では「私権の享有は出生により始まる」(第3条第1項)と、母親のお腹の中にいる胎児は権利義務の主体にはなれないことが定められている。だが相続では、妻の妊娠中に夫が死亡した場合、その後に生まれた子どもは亡くなった父親の相続人として財産を受け取れる。

 一見、矛盾する両規定だが、胎児の権利は民法が原則だ。もしも生まれる前から一般人と同様の権利があれば、胎児であっても売買や貸付、贈与も可能になり、あまりにも現実的でなくなる。人としての権利が認められていないため、仮に妊婦が殺害されても、被害者は「一人」だ。

 民法の原則どおりに考えるなら、第一子を妊娠中の妻を残して夫が死亡すると、夫の遺産は妻が3分の2、夫の両親が3分の1という割合で分割される。一方、出生後に夫が死亡すれば、妻と子どもが半分ずつを相続する。両者の時間の差による不合理を避けるため、民法では「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす」と特別ルールを定めている(886条)。これが、被相続人の死亡後に出生した子どもにも相続権があることの根拠となっている。

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