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2023年11号(2023/3/16)

<タックスニュース>東京都がふるさと納税を猛批判  「国の税収減を地方に押し付けるな!」

 任意の自治体に寄付をすると住んでいる土地に納める税金が差し引かれる「ふるさと納税」について、東京都はこのほど、同制度に反対する見解をまとめて都主税局のホームページに掲載した。それによれば、同制度による都の減収額は年間571億円に上り、特別養護老人ホーム60施設分の補助額に相当するという。

 ふるさと納税制度は、故郷やお世話になった土地を応援できる制度として2008年にスタートした。ただ寄付を受ける地方の自治体にとっては収入増の手段となる一方で、寄付者が集まる都市部では税収減が深刻な問題ともなっており、制度に反対する自治体も少なくない。

 東京都がこのほどまとめた見解では、制度の問題点として4つのポイントを指摘した。

 1つ目は、同制度が多くの寄付金を集めるための返礼品競争となっていて、ふるさとや応援したい自治体に寄付をするという制度の本来の趣旨からかけ離れているという点だ。この問題につき、政府は自治体による自助努力の結果と受け止めており、問題視する姿勢を見せていない。

 2つ目は、自治体が住民サービスを提供するために必要な経費を住民税で賄うという地方税の原則に反しているというものだ。都は住民サービスと住民税における「受益と負担という地方税の原則に照らしても適当ではありません」と批判した。

 3つ目は、高所得者ほど制度の恩恵を受けられるという点だ。ふるさと納税では、収入金額によって税優遇を受けられる上限額が変わるため、自己負担が同額でも受け取れる返礼品は高所得者ほど豪華になる。都によれば収入500万円の人の実質的な節税額が6400円にとどまる一方、収入2000万円の人では15万8800円に上るとして、「公平性の観点から問題がある」と指摘した。

 4つ目は、確定申告を不要とする「ワンストップ制度」によって、国税である所得税の減収が地方税に転嫁されているという点だ。ふるさと納税では原則として寄付分を所得税額から差し引き、引ききれなかった分を住民税から差し引くこととなっている。だが「ワンストップ特例」を使うと税額控除がすべて住民税に適用されるため、「本来、国税である所得税の減収となるべき額が、地域の住民サービスに使われるべき住民税の減収となってしまいます」として、制度のいびつさを批判した。

 ふるさと納税による都の減収額は年々増加していて、22年には571億円の税収が失われたという。都はこの額が特別養護老人ホームの施設整備費補助額の約60施設分に相当するとして、制度の見直しを求めた。

<タックスワンポイント>日銀新総裁で低金利時代ついに終了?  役員貸付金や延滞税の金利にも影響

 日銀の新総裁に、経済学者の植田和男氏が就任することが確実となった。前総裁の黒田東彦氏がこれまで行ってきた「異次元の金融緩和」政策を転換するのか維持するのかが注目されている。新総裁の舵取り次第では、約10年にわたって続いてきた歴史的低金利の時代が終わる可能性もある。

 金利の水準は、日本経済や個人の資産形成に様々な影響を及ぼし、もちろん税の世界も無関係ではない。例えば、会社が役員や従業員に金銭を貸し付けた時には、法令で定められた利息を取らなければ差額分が給与として課税されてしまう。法令で定める利息とは、会社が銀行などから借り入れてまた貸しした時には融資にかかる利率が適用され、そうでなければ「認定利息」と呼ばれる数字を使う。例えば2022年中に貸し付けたものであれば0.9%だ。

 認定利息は国税庁が毎年発表するが、その下敷きとなっているのは銀行の貸出金利で、貸出金利は長期金利の値動きがベースとなる。長期金利の値動きが認定利息に与える影響は顕著で、黒田総裁時代の“異次元の金融緩和”が始まる13年までに貸し付けたものにかかる利率は4.3%だったのが、翌14年からは1.9%まで一気に下がったことを見れば、その差が分かるだろう。

 他にも長期金利に影響される税の利率としては、延滞税や利子税に用いられる「特定基準割合」も存在する。こちらも金融緩和政策によって13年を境目に大きく変動し、それ以前は4%台で小幅に推移していたものが、14年以降は1%台後半まで下がっている。このように長期金利の変動は、税の世界にも大きく関わっているのだ。

 会社からの借金や延滞税、利子税に付く利息であれば、思わず「低ければ低いほどありがたい」と考えそうになるが、特例基準割合は、何らかの理由で税務署などからお金が戻ってくる時の還付加算金の利息計算にも使われる。つまり利率が低ければ損だけでなく得も小さくなるというわけだ。

2023年10号(2023/3/9)

<タックスニュース>エヌエヌ生命に行政処分  狙いはまたもや「節税保険」

 過度な節税が問題視されていた「節税保険」を巡り、金融庁は2月17日、オランダに本拠を置く外資系生命保険会社のエヌエヌ生命保険に対して保険業法に基づく業務改善命令を下したことを発表した。金融庁は節税保険の販売への監視を強めていて、昨年7月にマニュライフ生命保険が同様の処分を下している。さらに国内大手の明治安田生命にも立入検査を行う方針だ。

 今回の業務改善命令では、処分理由について主に(1)経営管理態勢・業務運営態勢の不備、(2保険本来の趣旨を逸脱した商品開発および保険募集――を挙げた。(1)では、営業優先、コンプライアンス・内部監査軽視の企業文化・風土が醸成されていると指摘し、そうした文化・風土が節税保険のような不適切な商品開発・保険募集推進を招いたとした。また(2)では、金融庁から保険本来の趣旨を逸脱するような募集活動を防止するための各種指針が示されているにもかかわらず、同社が経営陣の関与の下、組織的に本件節税保険を開発・販売を決定したと指摘した。公表された説明ではエヌエヌ生命が会社として防止策が機能しているかの確認すら実施していないとして、自主的な改善が期待できないことから処分に踏み切ったとしている。

 金融庁が問題視するのは、「名義変更プラン」と呼ばれる定期保険の一種だ。多額の死亡保険金を受け取れる契約を当初は法人名義で締結して高額な保険料を支払った後に、名義を経営者個人に変更し譲渡した上で解約し、支払った保険料の多くを返戻金として個人が受け取る仕組み。返戻金は「一時所得」として扱われ、通常の役員賞与などの所得と比べて税負担を抑えられる。

 節税効果をアピールする保険商品をめぐっては、2018年ごろより生命保険各社の販売が過熱した。保険料を全額経費として計上でき、利益を圧縮して法人税の支払いを遅らせる効果がある経営者向けの保険について、国税庁は19年2月、税務の取り扱いを見直す方針を示した。これを受け、日本生命や第一生命など大手生保4社はいずれも該当商品の販売を停止。しかしその後、「名義変更プラン」商品が一部の生保から登場し、この手法も問題視した国税庁は、21年6月に実質的に認めない通達を出していた。

 だがその後も一部の生保会社では節税効果を強調した販売が続いていたことから、昨年2月にマニュライフ生命、SOMPOひまわり生命保険、FWD生命保険、エヌエヌ生命保険の4社に対して立入検査を実施し、報告徴求命令を出すに至った。なかでもマニュライフ生命では経営陣をはじめとして組織的に販売を展開していたとみられ、悪質性が高いとして7月、節税保険を巡っては初めて、業務改善を命じる行政処分が下されていた。今回のエヌエヌ生命は2例目となる。

 金融庁の“攻勢”はまだまだ終わりそうにない。2月20日には、国内生保大手の明治安田生命保険に立入検査を行う方針を固めたことが明らかとなっている。同社は営業職員による着服などの不祥事が昨年明らかになっており、今回の検査では、こうした職員への管理体制を中心に調べるという。ただし、併せて節税保険の販売についても確認するといい、調査の結果次第ではさらに厳しい追及に発展しそうだ。

<タックスワンポイント>議決権の「準共有」ってなんだ?  事業承継時のトラブルの種

 相続が発生した時、遺産分割協議が終わるまでの相続財産は、原則として「相続人らが共有する」状態になる。これを民法では「準共有」という。分割協議がスムーズに終わればよいが、相続人のあいだで同意が得られないなどの理由で協議が終わらないと、いつまで経っても相続財産は全員が準共有している状態となってしまう。

 この準共有が大きなトラブルの種になるのが、事業承継に当たっての自社株の引き継ぎだ。例えば死亡した先代社長が900株を持っていた。相続人が3人の子だけだとすると、遺言がなければ900株は3人の準共有状態となる。準共有なので、遺産分割協議が終わるまでのあいだ、900株は「法定相続分に沿ってそれぞれが300株ずつ持ち合う」のではなく、1株1株が「3人の共有」状態となる。そして準共有となった株式の議決権は、「その権利行使の決定方法を、過半数をもってこれを決する」と規定されている。つまり後継者以外の複数の相続人が協力すれば、遺産分割が整うまでのあいだ「全株式の過半数」を得て、全議決権を持つこともあり得るのだ。

 実際に過去には、遺言を残さずに先代社長が死亡してしまったため、後継者ではない次男と三男が結託して全株式の議決権をネタに長男を脅すという事例が起きたこともある。長男は議決権を得る引き換えとして、二人に法定相続分を大幅に超える相続財産を譲らざるを得なかったという。

 こうした事態を未然に防ぐためには、何はなくとも先代がしっかりしているうちに遺言を残しておくべきなのは言うまでもない。最低でも遺留分を考慮に入れた遺産分割を遺言で指示しておけば、トラブルは大きくならなかったはずだ。さらに言えば、そもそも生前のうちに後継者に自社株式を譲っておけば、自社株の散逸リスクは防止できただろう。

 ただ他をかえりみない後継者への資産集中は、やはり争族トラブルの原因となりかねない。後継者以外の相続人にも配慮した遺言を残すことが、最終的には円満な事業承継につながるということを忘れずにいたい。

2023年9号(2023/3/2)

<タックスニュース>“幽霊病床”で不正受給  厚労省が実態調査へ

 17兆円超に上った新型コロナウイルスの感染拡大に伴って支給された医療機関向けの政府支援について、病床を確保したものの実際には患者を受け入れず「幽霊病床」化し、補助金を不正受給していた疑いのある事案が多数出てきている。会計検査院の指摘を受け、厚生労働省は実態調査に乗り出した。

 会計検査院は2023年1月、コロナ患者用にベッドを空床にしたり、大人数部屋を少人数部屋にするために休床を設けたりした医療機関に支給する「病床確保料」について、抽出調査の結果、補助金を受給しながら患者の病床利用率が半数を下回った医療機関が43%を占めたと発表した。

 病床確保料は1床当たり1日最大43万6000円を支給され、約3兆円の国費が投入された。この支給額は都道府県の病床確保を後押しした側面がある一方で、平時における1床当たりの売り上げの12倍にも及ぶ。問題視された医療機関の平均収支額は補助金の効果もあり、感染拡大前の19年度は約4億円の赤字だったが、拡大後の21年度は約7億円の黒字に改善していた。

 厚労省は22年1月に病床使用率が都道府県平均の7割未満の病院は補助金を減額する新基準を導入したが、今回の調査結果を受けて、補助金を受け取りながら患者受け入れを拒否した「幽霊病床」の実態調査を始めている。ある経済官庁幹部は「社会保障の大半が国民負担で賄われている現状について、医療機関の認識が薄すぎる。公的支援の見直しが必要だ」と批判する。

 一方で、新型コロナは5月8日から現在の2類から5類に移行されるため、現行の規定のままだと全額公費負担の医療費や入院費の法的根拠がなくなる。患者らの再感染に備えた体制維持や医師らの精神的負担への配慮の観点から、日本医師会の松本吉郎会長は1月に岸田文雄首相との面会後、記者団に「制度が変わっても、(病床確保料を含め)段階的な対応を経て慎重にソフトランディングをお願いしたい」と語っている。

 また、公費負担のあり方を巡っては特に貧困家庭などを中心に物価高などの影響で家計に重い負担がかかっている経済的状況下では、ワクチン費用の公的負担が減少して自己負担を強いられると接種自体が困難になるとの声もある。こうした事情から、「医療機関向けの支援からまずは縮小を図るべき」(厚労省幹部)との見方が強まっている。

<タックスワンポイント>特別受益証明書への署名捺印は慎重になるべし  遺産隠しの可能性、あとから税負担も

 誰かが亡くなったとき、相続人の誰かが生前に受けていた贈与は「特別受益」と呼ばれて、遺産に持ち戻して分割協議が行われる。例えば3人兄弟のうち長男だけが莫大な遺産の前渡しを受けていたら、残った遺産を法定相続分に従って3等分すると他の2人が大きく損をするというのが、特別受益の持ち戻し制度の主旨だ。

 この特別受益がある長男は、相続の発生に伴い「特別受益証明書」を書くことができる。これは別名で相続分不存在証明書とも呼ばれ、「私は生前贈与で相応の財産をすでに受け取っているので、遺産は受け取りませんよ」という意思表示を行う書類だ。これを書いた相続人は遺産分割から外れ、遺産分割協議書への署名捺印も必要なくなる。

 だが、面倒な遺産分割協議から外れるという目的だけのために特別受益証明書を書くことはやめたほうがいい。この証明書には様々な落とし穴があるからだ。

 第一に、遺産分割協議へ参加できず、協議書にもサインしないということは、遺産の全容を知らされないままの可能性がある。他の相続人らが結託して「あなたはこれだけの生前贈与を受けたのだからもう十分でしょう」と言って証明書を書かせてくるケースでは、あなたの知らない遺産がまだ眠っていて、それをあなたに知らせないまま山分けしているかもしれない。

 第二に、未成年の相続人を遺産分割から排除する狙いに利用される恐れがある。未成年が相続人となったとき、通常であれば親権者が代理人として遺産分割協議書に署名捺印をするが、親も相続人だと代理人になれないため、家庭裁判所に遺産分割協議書を提出して特別代理人の選定を受けなければならない。その際、未成年者に不利な協議書は認められないのだが、特別受益証明書を出していれば、特別代理人を選任することなく、未成年者に相続分を放棄させることができてしまう。

 そして第三に、特別受益証明書は自らに相続分がないことの証明をしたに過ぎず、プラスの財産もマイナスの財産もすべて受け取らない「相続放棄」とは根本的に異なるものだ。つまり亡くなった人に後から借金が見つかれば、特別受益証明書によって遺産を1円も受け取っていなくても他の相続人と同様に法定相続分に従って借金を分割継承しなくてはいけない。協議によって相続人間で債務の負担割合を決めることは可能だが、これはあくまでも相続人の間での合意に過ぎないため、債権者には通らない。

 特別受益証明書を書こうが書かまいが、実際に特別受益があるのなら遺産に持ち戻して分割を行うことに変わりはない。これまで挙げたような多くのリスクがあることを踏まえれば、証明書を書くのは、持ち戻しによって相続分がないことが明らかなときだけにしておくのが無難かもしれない。

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