国税不服審判所はこのほど、財務省が先に公表した2023事務年度(23年7月~24年6月)の「国税庁の実績の評価」のうち、審判所の評価に関する部分を抜粋・発表した。それによると、業績目標として掲げた「不服申立てへの取組」(不服申立てに適正・迅速に対応し、納税者の正当な権利利益の救済を図る)については、(1)不服申立ての適正・迅速な処理、(2)裁決事例の公表の充実――の2施策とも目標をクリアし、財務省評定で「目標達成」のS評価だった。
「不服申立ての適正・迅速な処理」の施策については、「審査請求の1年以内の処理件数割合」が99.1%で、目標値の95%をクリアしている。前事務年度から繰り越された審査請求2296件と当該事務年度に審査請求のあった3917件の合計6213件中、2873件を処理。審査請求から「1年以内」に処理した件数は2847件で、「迅速な処理」の割合は99.1%となっている。ただし、このうち請求を認容した件数は279件で、その割合は9.7%。処理のスピード化は図られているが、認容される割合はほぼ10件に1件しかない。
「訴訟の状況」については、前事務年度からの係属件数が172件で、新たな発生件数は189件。終結件数は172件だったので、期末係属件数は189件となった。終結した訴訟のうち原告側が勝訴した件数はわずか13件で、その割合は7.6%に止まっている。
「裁決事例の公表」の施策については、事例ごとに過去の参考判例を付記するなどしたうえで新たに27事例を公表し、その充実を図ったとしている。審判所では92事務年度から23事務年度までに出された裁決のうち、合計1904事例をホームページに掲載。23事務年度のアクセス数は約219万5千件となっている。
なお、審判所の23事務年度当初予算は46億559万円で、24事務年度には46億3139万円が予算措置されている。
国が納税者から税金を徴収する方法には、大きく分けて「申告納税制度」と「賦課課税制度」がある。前者は納税者自身が税額などを計算して納める方法で、後者は国が税額を計算して納税者に通知し、納税者はその通りに納めるというやり方だ。
戦前は、税務署が一方的に所得を査定して税額を納税者に告知していた。だが戦後になり、従来のあらゆる制度を抜本的に見直すなかで税制にも民主化の道が開かれた。それが申告納税制度だ。
国税庁は申告納税制度について、「納税者が高い納税意識を持ち、法律に定められた納税義務を自発的にかつ適正に履行することが必要」とする一方、「納税者が自ら正しい申告と納税が行えるよう、租税の意義や税法の知識、手続についての広報活動や租税教育、税務相談、確定申告における利便性の向上」に努めるとしている。いわば申告納税制度は、税を納める納税者と税務行政を運営する国の信頼関係で成り立っている。
だが近年は、かつての賦課課税制度に近づくような状況にある。例えば住民税は、かつては会社に勤務する従業員が自分で納めていたが、今では「特別徴収」という会社による天引きが一般的となっている。
今やネットバンクや会計ソフトを駆使すれば、何の手も加えずに税額が計算され、確定申告書類を作成できるようになった。マイナンバー制度がさらに普及すれば、国による納税者の所得捕捉が飛躍的に進み、自動的に所得から税額を算出、通知することも遠い未来の話ではないだろう。
毎年の年末調整や確定申告で苦労している納税者にとってみれば、進みつつある"賦課課税制度化"がありがたい一面はある。だが戦後の民主化によって申告納税制度を定着させた経緯を思えば、すべてを国に「おまかせ」していいのかは一度考えてみるべきだろう。