お役立ち情報 2022バックナンバー

2022年43号(2022/12/22)

<タックスニュース>新経済連盟の三木谷代表「所得税率を下げろ」  金融所得課税の強化に緊急コメント

 IT系企業の経済団体「新経済連盟」の三木谷浩史代表理事(楽天グループ会長兼社長)は12月13日、政府・与党が検討を進めている金融所得の課税強化案に対して緊急コメントを公表し、「資本家が国内から逃げ出し、外国からも来なくなる」と反対したうえで、「むしろ税率は引き下げるべきだ」と主張した。

 政府は、おおむね所得1億円を境に所得税の実質負担率が低くなる「1億円の壁」の是正に向けた対応策の検討を進めている。岸田首相は昨年9月の総裁選で、所得に関係なく税率が一律20%となっている金融所得税制が1億円の壁の主因になっていると指摘し、抜本的な見直しを掲げた。株式市場の反発を受け就任後1週間足らずで「当面触らない」と方針転換したものの、ここへきて議論が再燃し、一定の所得を超える人を対象に課税強化する案などを検討している。

 三木谷氏は政府の見直し案について、「1億円の壁が問題なのだとするのであれば、むしろ所得税の最高税率を下げる手段もある」と提起した。最高税率を引き下げるべき理由として、(1)配当やキャピタルゲインに対する課税は法人税支払い後のものであり、そもそも二重課税で資本効率を下げている、(2)国内外から投資や人を日本に呼び込むことへの著しい悪影響がある、(3)個人の所得税(住民税を含む)の最高税率は55%であり、相続税も含めると100稼いでも20も残らず世界最高水準の税率となっている、(4)成功者に対するさらなる増税の可能性の予告を意味し、これから起業しようとしている人に対して極めてネガティブなメッセージとなる――といった点を挙げた。

 また、富裕層に対する課税強化が市場に悪影響をもたらした事例として米・カリフォルニアを挙げ、「税金が高いことにより資産家や投資家が逃げ出す『ブレインドレイン(頭脳流出)』が起こり、町も荒廃してきている」と指摘した。

<タックスワンポイント>贈与税の非課税特例は「直系」のみ  「妻の実家からもらった」通用せず

 国立社会保障・人口問題研究所が2015年に行った調査によれば、独身者が結婚しない理由や既婚者が子どもを持たない理由を見ると、「経済的な不安」が他の理由を引き離して圧倒的に多かった。新型コロナウイルスによって経済がますます冷え込むなか、多くの若者が家庭を持ちたくても持たない状況に置かれている。

 少子化を解消すべく国は幼児教育の無償化などを進めている一方で、税金面からも支援策を用意している。それが「結婚・子育て資金の一括贈与の特例」で、これは結婚、出産、育児のための資金として直系の子や孫などへ一括贈与したときに、受贈者1人あたり1千万円(結婚資金の場合は300万円)までが非課税になる制度だ。

 実際にどのような費用が対象になるかというと、結婚費用であれば、結婚式や披露宴の開催費用、結婚をきっかけに引っ越す際の転居費用、新居の敷金や礼金、3年以内の家賃などが該当する。逆に対象とならないのは、婚活費用、エンゲージリング、新婚旅行代などだ。

 次に出産費用としては、人工授精などの不妊治療代、妊婦健診の費用、出産までの入院代や分娩代、産後検診などが対象となるが、海外に渡航しての不妊治療や処方せんに基づかない医薬品代などは対象にならない。

 最後に育児費用としては、子の治療費、幼稚園や保育園への入園料や保育料、園内行事への参加費などが対象となる。こちらでも処方せんに基づかない医薬品代などは含まれないので気を付けたい。

 注意すべき点としては、近年の税制改正で、贈与を受ける側の子や孫に所得制限が設けられた点が挙げられる。現在では、贈与を受ける側の前年の所得が合計1千万円を超えていると、非課税特例の適用は受けられない。

 ここで、「それなら所得のある自分ではなく妻が贈与を受ければいい」と考えるかもしれないが、それはNGだ。この特例の対象となるのは、あくまで“直系”の子や孫への贈与のみ。つまり妻の実家や夫の実家からの贈与は、非課税とはならない。同様に、叔父や叔母、兄弟からの贈与も対象とはならず、あくまで非課税で贈与できるのは父母(養父母)、祖父母、曾祖父母だけと覚えておきたい。

2022年42号(2022/12/9)

<タックスニュース>贈与の持ち戻し  「10年に延長」で決着か

 一定期間内に生前贈与した財産を相続税の課税対象に繰り入れる「持ち戻し」について、政府・与党は対象期間を現行の3年から10年に延長する方向で検討していることが分かった。一部メディアが報じた。

 持ち戻しとは、相続発生前の一定期間内の生前贈与については相続財産に戻して税金を計算するルールだ。現行制度では、たとえ年間110万円まで認められている非課税枠内の贈与であっても、それが死亡前3年以内に行われたものであれば相続財産に含めて相続税を課されることとなっている。

 政府・与党は年末にまとめる2023年度税制改正大綱で、この持ち戻しの期間を10年に延長する方向で検討を進めているという。ただし、書類の保存や確認など現場での事務が増大することに対しての懸念も強く、実効性に問題がないかを今後詰めていく方針だ。

 また贈与税の課税方式の一つである「相続時精算課税」についても見直しが検討されている。同制度は2500万円までの贈与に対して贈与税を課さず、相続発生時に持ち戻して税額を再計算するもので、「資産移転の時期の選択に中立的な税制ということができる」(日本税理士会連合会)と評価される一方で、一度選択すると110万円以下の贈与であっても逐一申告が必要になるなど、利用のハードルが高く設定されている。21年の贈与税の申告実績をみると、暦年課税を申告した人が48万8千人だったのに対して相続時精算課税を申告した人は4万4千人と、圧倒的に人気がない。そこで23年度改正では、相続時精算課税についても少額贈与時の申告を不要とするなど、利用促進に向けたテコ入れが図られる見通しだ。

 また富裕層の資産移転に役立ってきた教育・結婚・出産・育児資金の一括贈与の非課税特例については、来年3月が期限となっていることを踏まえ、政府税制調査会からは「格差の固定化につながり、廃止が適当」との意見が出されている。ただ一方で、自民党の人口減少対策議員連盟が期限を延長すべきだと決議するなど、与党内でも延長を求める声は少なくないことから、議論は難航しそうだ。

<タックスワンポイント>生計が別だと小規模宅地特例は使えず  親族への無償提供は適用NG

 相続で宅地を引き継いだときには、評価額を最大80%カットできる「小規模宅地の特例」を使えるかどうかで税負担が大きく変わってくる。特例を適用するためには様々なハードルをクリアしなければならないが、そのなかに、被相続人か被相続人と生計を一にしていた親族が利用していた土地のみが対象となるという条件がある。

 「生計を一」とは必ずしも同居していることを必要としないが、例えば独立して家計を立てている家族に無償で貸している宅地は、小規模宅地の特例の対象にはならない。

 例を挙げてみよう。定年退職したAさんが、一昨年から生まれ育った故郷に戻って暮らしているとする。定年前に暮らしていた家は土地と家屋ともにAさん名義のままだが、今は別生計の長男家族が住んでいる。長男家族からは賃借料をもらっていない。こうしたケースでは将来、Aさんが死亡して相続が発生したときに長男が「小規模宅地等の特例」を適用することはできない。

 だが、これが無償ではなく賃料を取っていたら話は変わってくる。有償で子どもや親族に賃貸していれば被相続人が事業として貸していることになるので、被相続人の事業用財産として「小規模宅地等の特例」が適用できるためだ。減額される限度面積は200平方メートルで、相続税評価額が半額になる。

 もっとも形式的に賃貸借契約を締結していても、固定資産税程度の安い賃料で賃貸しているのであれば事業とはみなされず、特例が適用できない可能性もあることには注意が必要だ。

2022年41号(2022/12/2)

<タックスニュース>自公両党の税制議論  インボイス対応で苦慮

 自民・公明両党の税制調査会は11月18日、それぞれ総会を開き、2023年度税制改正に向けた本格的な議論を開始した。12月中旬に与党税制改正大綱を取りまとめる。最大の焦点となるのは防衛費増額の財源としての増税だ。一方、来年10月に導入されるインボイス制度を巡って、フリーランスなど小規模事業者の税負担を軽減する策を導入する案も出ており、与党税調は検討を進める。

 消費税は商品などを販売した事業者が一定の税率に基づいて計算した額を納税することになっている。消費者は消費税分を上乗せされた価格を支払っている。インボイスは、事業者間の取引で商品やサービスにかかる消費税の額や税率を正確に把握するために発行する請求書で、消費税に軽減税率が導入され複数の税率が適用されることになったことで、事業者の納税額把握のため導入が決まった。

 来年10月の導入を巡っては、日本税理士会連合会が事務負担増の懸念から延期を求めるなど関係団体からは反発も強い。現行制度では、売上高1千万円以下の小規模事業者は消費税の納付を免除されているが、免税事業者はインボイスを発行できないことから、仕入税額控除を利用したい企業が免税事業者との取引を敬遠する動きが広がるリスクが指摘されている。

 政府・与党内に浮上している案では、免税事業者が課税事業者に切り替えた場合、納税額を売上税額の2割に抑える措置を、インボイス導入の23年10月に合わせてから3年間の時限つきで設ける。また、1万円未満の少額取引はインボイスの発行を不要とする案なども議論の俎上に上がっている。負担軽減の措置によって制度が複雑化する懸念もあるが、ある関係省庁の幹部は支持層である産業界や業界団体に対して与党議員が配慮を示そうとしている格好だと推測する。

<タックスワンポイント>相続前後の預金引き出しは“争族”の元  民法改正で単独引き出し可能に

 かつて銀行の預金口座は、本人が死去した後は原則として、遺産分割協議が整うまでは身内であっても引き出すことはできなかった。しかしそれはあくまでルール上の話であり、実際は亡くなったことが銀行に伝わらないうちにカードや通帳を使って引き出しや振り込みなどを行うことは普通に行われていた。

 そして2019年の民法改正により、現在は遺産分割前の引き出しは法的にも「シロ」とされている。現行制度では、それぞれの相続人は各自の法定相続分の一定割合を、他の相続人の同意なく単独で引き出せる。なお引出額の上限は1つの金融機関当たり1人150万円までとなっている。

 課税の面からみれば、死亡した被相続人の預貯金は相続税の対象となる財産だが、仮に死亡の直前に多額の預金が口座から引き出され、それが被相続人の生活費や医療費など、妥当な目的で使われていれば、その分は相続財産には含まれない。また、一部の相続人が被相続人の死後に葬儀費用を負担した場合にも、その分は相続税上のマイナス資産として計算することができる。

 だが相続前後の預金引き出しで問題となるのは、なによりも相続人の間での揉め事の種になることだ。相続では必ずといっていいほど家族間で争いが起きるとも言われるが、実際には同居していた長男夫婦などが家や預金の全てを相続し、葬儀も全て長男の責任で済ませ、弟妹たちには預金をいくばくかでも分けることで平和裏のうちに終わることがほとんどだ。他の親族もそれを了承しているため、莫大な資産があるか、もしくはよほど仲が悪くなければ揉めることはない。

 だが、もし相続前後の預金引き出しが後に発覚すれば、それは不要な火種となってくすぶることになりかねない。たとえ全てを承継する予定の息子であっても、多くのお金を動かすのであれば、相続人全員の了承を得て行うようにしたいところだ。

2022年40号(2022/11/24)

<タックスニュース>財政審が提言  ワクチン接種の有料化

 財務省は、財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の分科会で、社会保障分野について、新型コロナウイルスのワクチン接種費用を全額国費で負担している現状を「特例的な措置は廃止すべきだ」とし、負担額の見直しを提言した。病床確保の支援などを含め、コロナ禍の医療提供体制への国費支出が主な事業だけで少なくとも約17兆円に達し、このままでは財政の悪化が加速するとの懸念が背景にある。

 現行の接種料金は約9600円だが、特例として無料で受けられる。財務省によると、接種回数は、2021年度は2億5700万回で、事業規模は2兆3000億円余りに上った。

 財務省は社会がコロナと共存する「ウィズコロナ」を目指し、経済再生との両立を掲げる中、ワクチン接種も正常化に向けて転換を図っていくことが必要との見解を示した。季節性インフルエンザなど他の感染症と同様に、接種希望者が費用の一部を負担する「定期接種」に移行すべきだと主張した。

 国が買い取って無料で配布してきた抗原検査キットを、民間企業を主体とする供給体制に切り替えるよう指摘。約5000億円の基金で支援してきた国内企業のワクチン開発が進んでいないことにも言及し「各企業の研究開発能力を十分チェックすべきだ」と強調した。

 また、社会保障分野では、多くの高齢者が1割負担となっている介護サービスの利用料を原則2割に引き上げたり、2割もしくは3割負担の対象者を拡大したりするべきと主張した。高齢者の急増と現役世代の急減が同時に進む今後の制度の持続可能性を懸念する声が相次ぎ、介護保険の引き上げを求めた。

 増田寛也会長代理(日本郵政社長)は会合後の会見で、後期高齢者医療制度の自己負担割合の基準を念頭に、「介護も医療と同様の方向へ持っていくべきではないか」と指摘。物価高騰の状況を踏まえ、「(利用者負担の引き上げとあわせて)経過措置を働かせることもしっかり考えていく必要がある」との見解を表明した。

<タックスワンポイント>そんなのアリ? 重加算税の「抜け穴」  対象はあくまで申告書のみ

 申告漏れや無申告に対する罰則のなかで、最も重いのが「重加算税」だ。単なる計算ミスなどではなく、二重帳簿の作成や帳簿書類の破棄、隠匿、改ざんなど税逃れの意図に基づく「仮装・隠ぺい」があったと認定されると、重加算税が課される。その税率は初犯でも35~40%、重加算税の前科があれば最大50%という非常に厳しいものとなっている。

 だが最近、思いもよらない方法でこの重加算税を免れるという事例が報告された。今年10月に開催された政府税制調査会の会合では、「税に対する公平感を大きく損なうような行為」の例として、重加算税に関するケースが報告されている。

 それによれば、ある法人が法人税の確定申告書を提出後、外注費の計上漏れがあったとして更正の請求を行い、それに基づく還付金を受け取った。だが国税当局がその後調べたところ、更正の請求時に添付されていた外注費の領収書が架空であったことが判明したという。添付された領収書には印紙も貼付され、取引先の社印を偽造して使用するなど非常に巧妙な細工が施されていたらしい。

 これらの行為はれっきとした「仮装・隠ぺい」に当たるが、この法人に重加算税は適用されなかった。その理由は重加算税の賦課要件を定めた国税通則法にある。

 通則法65条では、納税者が税額計算の基礎となる事実について仮装・隠ぺいを行い、「その隠ぺいし、または仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときには(中略)重加算税を課する」と定めている。どういうことかというと、重加算税が課されるのは、あくまで仮装・隠ぺいが行われた「申告書」に限られるということだ。

 先ほどの事例でいえば、法人が提出した申告書自体には問題がなかった。その後の更正の請求において悪質な仮装を行ったのだが、税法上、更正の請求は「納税申告書」に該当しない。そのため当局としては重加算税を課せなかったわけだ。

 まさにルールの抜け穴を突いたやり口というわけで、この報告を受けた政府税調では、「脱税者への懲罰を強化すべき」、「現行の重加算税とに代わる新たな措置を」など、厳罰化や追徴課税の強化など措置の見直しを求める意見が相次いだという。

2022年39号(2022/11/17)

<タックスニュース>とにかく解決には時間がかかる!  2国間の「二重課税」

 国外への利益移転を防ぐ移転価格税制の適用などにより企業に税が二重に課されてしまったとき、両国の相互協議による解決までの期間は平均で約2年半とするデータを国税庁が発表した。相互協議の発生件数が処理件数を上回る発生超過の状態も数年続いていて、次年度に持ち越された繰越件数は年々積み上がっている状態だ。

 海外の関連会社に自社商品を通常の取引価格よりも低い価格で販売すると、課税所得はその分減少して法人税負担も少なくなる。一方、海外の関連会社からすれば日本の会社から商品を安く仕入れたことで利益が増え、自国での税負担が増える。結果、本来なら日本の会社の利益となる部分が海外に移転し、税収も海外に持って行かれてしまうことになる。こうした課税所得の海外移転を防ぐため、取引価格が一般企業同士における価格に比べて不当に安かったり高かったりすると判断された時には、そこに課税逃れの意図があったかどうかにかかわらず、一般的な価格に計算し直して、移転された利益部分に追徴課税される。これが移転価格税制の趣旨だ。

 だが企業にとっては、同税制が適用されて申告漏れの部分に日本で追徴課税がされると、海外で子会社が納め過ぎた分について二重課税の状態となってしまう。二重課税は自動的に救済されることはないため、申し立てることによって両国の税務当局による「相互協議」での解決を求めなければいけない。またこうした事態になることを事前に防ぐため、各国税局が設けている同税制専用の事前相談窓口などを利用することができるようになっている。

 国税庁が11月9日に発表した最新のデータによれば、2021事務年度(21年7月~22年6月)に発生した相互協議の件数は246件で、そのうち事前確認によるものが188件、移転価格税制が適用されたものその他が58件だった。一方で、相手国税当局との合意や納税者の申し立ての取り下げなどによって21事務年度に処理した件数は186件なので、60件の“積み残し”が生まれた。この積み残しの残高は、増加傾向にある。

 特筆すべきは、処理事案1件当たりに要する解決までの期間だ。国税庁によれば、移転価格税制その他による事案の平均処理期間は31.5カ月と、2年半に及んでいる。また事前確認をしたものについても31.6カ月と、事前チェックの意味を為していない現状が浮き彫りとなった。さらに相手国の税務当局との連携が取りづらいOECD(経済協力開発機構)非加盟国に至っては、実に平均44カ月もの時間がかかるという。

 17年には、国内製薬最大手の武田薬品工業(大阪市)が、海外の子会社に利益を移して不当に税負担を免れているとされて移転価格税制を適用された。申告漏れ額は約71億円で、同社は追徴税額28億円を納付後、ドイツですでに納税をしていることから「二重課税」だとして再調査を請求し、両国の税務当局による協議も求めた。また重機大手のIHI(東京都江東区)も16年3月期までに、海外のグループ会社との取引を巡って移転価格税制を適用され、約100億円の申告漏れを東京国税局に指摘されたケースもある。

 同税制が適用されて申告漏れの部分に日本で追徴課税がされても、海外で子会社が納め過ぎた分について自動的に救済されることはない。企業からの要請を受け両国間の相互協議によって調整が行われることもあるが、約3年に及ぶ時間と膨大な手間がかかり、資金力のない中小企業では税負担を飲み込まざるを得ない可能性も高い状況が続いている。

<タックスワンポイント>遺留分の請求は現金のみに  2019年に民法改正

 2019年7月に施行された改正民法では、約40年ぶりに相続関連法の大きな見直しが行われた。そのうちの一つが「遺留分の金銭債権化」だ。

 従来、遺産分割の内容に不満を覚えた相続人が遺留分を請求したとき、その請求の対象となっていたのは「相続財産そのもの」だった。つまり現金だけでなく、不動産や有価証券も含まれていた。

 しかしそれでは、遺産の大半を不動産が占める場合、遺留分の請求を受けた時点で共有状態となり、処分や利用に大きな制約を受けてしまう。同様に自社株などが遺留分の対象になると、全株式が共有化状態になってしまい、後継者が議決権などを自由に振るえず経営を阻害されるケースも生じていた。

 そこで改正民法では、遺産分割の結果に不満のある法定相続人が遺留分の請求をした時に、その対象を「相続財産そのもの」でなく「遺留分相当額の金銭」と規定した。これにより現在は、遺留分の請求に対しては金銭のみでしか応じられなくなっている。また同時に、それまで使われていた「遺留分減殺請求」という言葉がなくなり、「遺留分侵害額請求」という名称に改められた。

 ただ、遺留分の支払いが金銭のみになったということは、請求をされた側はまとまった額の現金を用意しなければならないことを意味する。例えば相続財産のほとんどが不動産のケースで、遺留分を請求された相続人に預金などの現金資産がほとんどない場合、どうすればいいのか。こうしたケースで考えられる対応はいくつかあり、売却できる不動産があるなら現金に換えたり、銀行からお金を借りて遺留分請求に充てたりという方法がある。

 どうしても金銭が用意できないのであれば、両者の合意のもとで従来のように金銭以外の不動産などを充てることも可能だ。だがその場合、財産を渡した側に譲渡所得税が課されてしまう点には留意したい。

2022年38号(2022/11/11)

<タックスニュース>法人所得が過去最高の79兆円  税額はピーク時の75%

 2021事務年度(21年7月~22年6月)の法人税の申告所得は79兆円を超え、過去最高を記録した。コロナ禍から2年ぶりに持ち直した前年からさらに伸び、落ち込んでいた旅館・飲食などの業種も増加に転じた。全国的に新型コロナウイルスの新規感染者数が減少するなか、コロナ禍からの持ち直しが数字にも表れたかたちだ。

 国税庁が10月31日に公表した最新の法人税申告事績によれば、21事務年度の法人税は申告件数が307万件で、申告所得金額は79兆4790億円だった。前年度から約9兆3千億円増加し、過去最高額となった。申告税額も13兆9232億円と伸びたものの、税額は過去最高を記録したバブル期の1989事務年度の75%程度にとどまっている。89年には本則40%だった法人税率が、第二次安倍政権下の法人減税によって23%台まで下がっていることが理由だ。

 黒字申告1件当たりの所得金額は7273万2千円で、赤字申告1件当たりの欠損金額は853万9千円だった。申告があった法人のうち、黒字割合は35.7%で、前年比で落ち込んでいた前年から立ち直っている。

<タックスワンポイント>小規模企業共済を法人化で解約すると受け取れる額は?  解約手当金より有利な準共済金をゲット

 小規模企業共済は国が作った退職金制度で、毎月掛け金を払い込み、事業をやめた時などに共済金を受け取れる制度だ。小規模事業者を対象とした共済であるため、加入できる事業の規模は一定以下に限られ、建設業、製造業、運輸業、宿泊業・娯楽業、不動産業、農業であれば従業員20人以下、卸売業・小売業、サービス業(宿泊業・娯楽業除く)であれば5人以下の事業者が対象となっている。

 何かがあった時に受け取れるお金は、その理由によって「共済金A」、「共済金B」、「準共済金」、「解約手当金」に分かれ、共済金Aが最も多く、解約手当金が最も少ない。例えば個人事業主であれば、廃業や契約者死亡が「共済金A」に当たり、65歳以上で180カ月以上掛け金を払い込んだ人がもらえる老齢給付が「共済金B」に当たる。

 では、ある事業者が同共済に個人事業者として加入したが、その後に業績が順調に伸びたため法人化したケースはどうなるか。法人化によって共済の加入条件を満たせなくなったので解約せざるを得ないが、その時受け取れるのは最も少ない「解約手当金」なのか。

 こうしたケースでは、契約者が受け取れるのは「解約手当金」ではなく「準共済金」だ。法人成りした結果として加入要件を満たせなくなったのはやむを得ないため、制度上も救済措置が設けられているわけだ。逆に法人成りをした場合でも、加入資格をなくしていなければ、解約時には最も金額の低い「解約手当金」の対象になってしまう。そのほか、任意解約や掛金の滞納などによって解約に至った場合も「解約手当金」に該当する。

 準共済金以上では、給付される金額は基本的に掛金を下回ることはないが、解約手当金は加入期間が20年未満だと元本割れしてしまうので気を付けたい。また掛金の払い込みから1年経たずに解約をすると、そもそも手当金を受け取れない。

 小規模企業共済の掛金は全額を所得控除でき、共済金も受け取り方によって「退職所得」や「公的年金等の雑所得」として税優遇を受けられるので、対象に含まれているならぜひ加入を検討したい。

2022年37号(2022/10/27)

<タックスニュース>ニュージーランドで「げっぷ税」導入へ  牛と羊から大量のメタンガス

 ニュージーランドのアーダーン首相は10月11日、温暖化ガスであるメタンの排出量を削減する取り組みの一環として、ウシやヒツジなどの家畜を飼育する農家に課税する提案を推進する方針を明らかにした。

 ニュージーランドは家畜や食肉の輸出大国で、国内の畜牛は約1000万頭で人口の2倍、ヒツジは約2600万頭で人口の5倍を上回る。これらの家畜の「げっぷ」が生み出すメタンガスは、同国の温暖化ガスの総排出量のほぼ半分を占めている現状がある。生物から排出されるメタンガスには、短期的には二酸化炭素の80倍を超す温室効果があるという。地球温暖化の防止に向けて、各国では業界ごとに排出量を定めた排出量取引制度を定めてきたが、これまで農業は対象外となっていた。

 アーダーン首相は新税のアイデアについて、「世界で農業排出に価格を付けて削減する制度を策定した国はほかにない。つまり我が国の農家は率先者としての恩恵を受けられる」と強調した。課税額は飼育する動物の数や農場の規模、使用する肥料の種類、メタン排出量を削減するための方策がとられているかなどによって決める方針だ。2025年に新税をスタートさせ、税収は農家を支援するための研究や補助金に充てるという。

 同国では20年ほど前にも、家畜のメタン排出量に応じて農家に課税する案が浮上したものの、農家などの強い反発を受けて廃案となった経緯がある。またオランダでもメタンガス排出量削減のため家畜の数を減らすという案が検討されたことがあるが、こちらも農業関係者らによる激しい抗議運動を受けた。今回の新税についても導入までには激しい議論が起きそうだ。

<タックスワンポイント>税関係もパブコメ義務化必要?  原則必須だが税は適用除外

 副業の所得区分を巡り、国税庁が当初案で示していた「300万円基準」を撤回したことが話題となっている。国税庁が一度提示した方針を全面的に取り消すというのはレアケースだが、募集したパブリックコメントに通常の70倍にも上る7千件超の意見が寄せられたことが影響したようだ。

 このパブコメは、行政手続法の39条に定められた制度で、そこには「命令等を定めようとする場合には、当該命令等の案及びこれに関連する資料をあらかじめ公示し、意見の提出先及び意見の提出のための期間を定めて広く一般の意見を求めなければならない」と書かれている。「命令等」とは法律ではない政令、省令、許認可基準、行政指導の方針などを指し、国税庁の通達もこれに当たる。つまり行政庁がなんらかの命令等を定める際には、必ずパブリックコメントを実施しなければいけないというのが原則だ。

 だが実際には、国税庁は通達を出すたびにパブコメを実施しているわけではない。これはなぜかというと、同じ行政手続法のなかにパブコメを省略してよい「適用除外」の要件が定められているからだ。例えばパブコメをしなくてよい条件とは、公益のために緊急に命令を定めなければならない場合や、他の行政機関がすでにパブコメを実施しているものと同一内容の命令などがある。そして除外要件のなかに「納付すべき金銭に関する法律の制定や改正に付随する命令」があり、税務関係はこれに該当する。

 今回の「300万円基準」や馬券の当選金の所得区分など、国税庁がパブコメを実施したことはあるが、これはあくまで「除外要件に該当する場合でも行政機関が必要と認めればパブコメを実施してもよい」という例外で、意地の悪い言い方をしてしまえば国税庁の“お情け”といえるかもしれない。

 税金関係の命令をパブコメの対象から除外することについては、法律が制定された当初から疑問の声があったようだ。2005年に開催された行政手続法の改正に関する検討会では、委員から「なぜ税金関係が除外されているのか」と質問されて、財務省は「税務関係法令をパブリックコメントすれば、様々な意見が出て年末の予算プロセスにのせられるか疑問だから」と時間的制約を理由に挙げている。しかし納得できない委員が「通達は国税庁内部の行政規範とはいえ国民に対して影響するものなのでパブコメの対象とすべきだ」と追及すると、「税はほとんど全国民が利害関係者であり、例えば路線価などはそれぞれの利害に基づいた意見が出されて相反するから、パブコメを行うと収拾がつかなくなる」と答えており、こちらが財務省の偽らざる本音だろう。

2022年36号(2022/10/20)

<タックスニュース>「フラット35」不正状態を放置  会計検査院が指摘

 長期固定金利の住宅ローン「フラット35」で融資を受けながら自らが居住せずに第三者に賃貸するなどの不正利用が行われていた問題で、会計検査院は10月5日、フラット35を提供する独立行政法人住宅金融支援機構(以下「機構」)に対して問題発覚後も不適切な状態が放置されていたと指摘する調査結果を公表した。本来の利用条件を逸脱した状態は計56件に上り、使われた税金は約19億円に達していた。

 「フラット35」は35年固定金利の住宅ローンで、民間金融機関の融資した住宅ローンを機構が譲り受ける仕組みだ。住宅購入希望者にとっては、長期間の変動金利のリスクに影響されないというメリットがあり、国にとってはマイホーム購入のハードルを下げることで新築市場の活性化が期待できるという狙いがある。そうした制度目的を踏まえ、フラット35はマイホーム目的であることと自己居住が条件だが、近年になり、投資用のマンションにフラット35を適用する不正が問題となっていた。

 検査院は今回、過去に不適正な事例が発覚した大都市にある中古マンションの購入用などの融資から計7100件を抽出し、居住実態などを調べた。その結果、自らが居住せず第三者に賃貸していたケースが45件、住宅用から事務所や店舗などに用途変更されたケースが11件あった。なかには融資当初から居住実態がないケースも5件あったという。

 具体的には、東京都港区の中古マンションを別荘として購入するとして約5千万円の融資を受けながら購入から約10カ月後に第三者に賃貸した例や、約3500万円の融資を受けた利用者が後に事務所として第三者に貸していた例などが確認された。

 不正利用問題が発覚した2019年以降、機構はホームページに不正利用の防止を呼びかけるメッセージを記載したり、投資目的で利用した場合は残債を全額返済することを了承する書面の提出を利用者に求めたりするなど再発防止策を実施していた。だが結果的には不適切な状態が放置されており、検査院は「今回の調査で見つかった不適切な利用実態は氷山の一角」としている。

 検査院は是正の取り組みとして不正利用者への全額償還請求などを求めるが、問題はそう単純でもない。フラット35の不正利用には物件を購入した本人も関与しているものの、手口を指南して主導していたのは不動産業者とみられる。20年に機構がまとめた報告書によれば、「投資物件の購入を勧誘する複数の紹介者、特定の売主の社員、不動産仲介業者、サブリース事業者」などで構成されるグループが、購入者に対して「ローンの負担をサブリース賃料で返済できるリスクの少ない不動産投資」だと勧誘し、購入に結び付けていた。さらにその後、購入者の知らないところで住宅購入価格を水増しし、多額の融資を受けていた事例も報告されている。

<タックスワンポイント>生命保険は受取人固有の財産じゃない!?  例外が適用される「著しい偏り」

 生命保険金は「受取人固有の財産」といわれる。民法では生命保険金を請求する権利は相続財産から除外され、原則として遺産分割の対象とならない。保険金独自の非課税枠もあり、他の財産よりも優遇されることから、生命保険はオーナー企業の後継者の納税資金や自社株対策の原資に最適といわれる。

 ただし場合によっては、この生命保険金が受取人固有の財産ではなくなる時もある。例えば親が亡くなって3人の子が相続人として残されたケースで、相続財産が預金1500万円のみだったとする。3人で500万円ずつ分配すれば円満解決できそうだが、もし預金以外に長男のみ生命保険金2000万円が支払われていたとすればどうだろうか。長男からすれば、生命保険金は前述のとおり受取人固有の財産なので、もともと自分のものであって相続財産には含まれず、遺産分割には関係ないと主張するだろう。

 しかし最高裁は、こうしたケースに対して、「到底是認することができないほど著しいと評価すべき特段の事情」がある時には、保険金を遺産に持ち戻して分割すべきだと判示している。「特段の事情」とは、保険金の額や遺産の総額に対する比率だけでなく、同居の有無や被相続人の介護などに対する貢献の度合い、各相続人の生活実態などが総合的に考慮されるという。

 判例によれば、仮に金額のみを考慮して判断すると、「遺産総額に対して45%~50%を超えた保険金」がおおむね持ち戻しの対象になるといわれる。先ほどの例でいえば、預金1500万円と生命保険2000万円で遺産総額は合計3500万円なので、それに占める保険金の比率は約57%となり、持ち戻しの対象になるわけだ。長男が受け取る遺産は生命保険金のみの2000万円、他の2人はそれぞれ預金750万円を得るのが最終的な結論となりそうだ。

2022年35号(2022/10/13)

<タックスニュース>コロナ融資  「返済に不安」じわり拡大

 新型コロナウイルス対策の特別融資を受けた企業のあいだで、返済に対する不安がじわじわと拡大している。現状では多くの企業では未返済か返済が始まったばかりで、今後返済が本格化していけば、さらに苦境に追い込まれる顧問先が増える可能性もある。

 コロナ禍で苦しむ企業に無利子・無担保で運転資金を貸す「ゼロゼロ融資」について、帝国データバンクが8月に行った調査(有効回答1万1935社)によれば、8月時点で返済がすでに開始している企業が64.8%を占めた。

 一方で融資の5割以上を返済しているのは13.3%にとどまり、3割未満が42.3%で最も多かった。また未返済や今後返済を開始する企業も32.6%と約3分の1を占めた。今後1年以内に返済が始まる企業も2割あり、ゼロゼロ融資の返済は今後いよいよ本格化していくこととなる。

 しかし一部の企業では今後の返済に暗雲がただよう。返済見通しを聞いた質問では、「返済が遅れる可能性がある」(5.2%)や「条件緩和を受けないと返済は難しい」(4.8%)など返済に不安を抱えている回答が1割を超え、今年2月の前回調査から3ポイント以上増えた。また現状では予定通り返済できているという企業からも、「(コロナ禍が)長引くようであれば厳しくなることもある」(旅館・ホテル業)、「現段階では返済可能だが、今後資材の高騰の影響に限らず、電気料金等の大幅値上げなど家計を直撃するようになると一気に市場がしぼむ」(建材・家具、窯業・土石製品製造)などの懸念が聞かれた。

 中小企業に保証を提供する全国信用保証協会連合会のデータによれば、融資返済が不可能な企業に代わって協会が肩代わりする「代位弁済」の実績推移は件数・金額ともに12カ月連続で前年同月を上回った。ゼロゼロ融資の返済が中小企業の資金繰りを圧迫する状況が、じわじわと顕在化しつつある状況だ。

<タックスワンポイント>負担付贈与債務にできない条件  お金に代えられない介護の約束など

 ローン返済などの債務を引き受けさせることを条件に金銭や不動産などを贈与することを「負担付贈与」という。この債務の内容に法律的な定義はなく、家のローンの返済でも、居宅の自分が死ぬまでの使用権でもよい。最近では「財産を贈与する代わりに、自分を介護してほしい」という条件の負担付贈与もあるようだ。

 負担付贈与では、贈与税を計算する際に、負担額を財産から差し引いて贈与額を計算する。例えば2千万円の現金を贈与して500万円の借金を肩代わりしてもらうケースでは、贈与税は差額である1500万円にかかることになる。

 しかし負担付贈与を行ったにもかかわらず、贈与税の計算において債務を計上できないこともある。それが前述した「贈与の代わりに介護をしてもらう」というような、負担の内容が金銭に換算できないケースだ。「思いはお金に代えられない」という美談ではなく、文字通り介護負担を正確に換算することが困難であるというのが理由となっている。近年では本人だけでなく「死後にペットの世話を頼みたい」という負担付贈与も行われているが、こちらでも贈与税においては債務にできないので注意したい。贈与税を減らしたいなら、負担付贈与の内容は現金や不動産などにとどめておくのが賢明だろう。

 ちなみに民法では、被相続人の介護に貢献した人が、遺産分割においてその貢献度を「寄与分」や「特別寄与料」として請求できる制度が設けられている。この制度では、介護貢献を金銭に換算できるよう、介護報酬相当額や介護日数などを用いた計算方法がしっかりと定められている。同様の計算式を負担付贈与にも用いればいい気もするのだが…。

2022年34号(2022/10/7)

<タックスニュース>声優の5人に1人が「インボイス廃業」  発注側からの圧力も

 来年10月にスタートするインボイス制度によって収入が減少するとして、声優として活動する人の5人に1人が廃業を検討していることが分かった。低収入の若年層の個人事業者ほどインボイス制度の影響を受けるとみられる。インボイス制度をきっかけとする廃業の増加は、声優業界に限った話ではなさそうだ。

 調査は、プロとして活動する声優らで立ち上げた有志グループ『VOICTION』が今年9月に開始し、「声優の収入実態調査」260件、「インボイスに関するアンケート」183件の回答を得たもの。

 調査では、現在1万人以上いる声優のうち7割が年収300万円以下で、とりわけ20~30代の若年層は約半数が年収100万円以下で活動していることが分かった。今回の調査に回答した層では、約90%が免税事業者に該当するという。

 「インボイス制度で仕事が増減すると思うか」との質問に対して、「増えると思う」と答えたのは1%のみで、76%が「仕事が減る」と考えていると答えた。さらに23%が「廃業をするかもしれない」と答え、インボイス制度が零細事業者の事業の存続に重大な影響を与えていることが明らかとなっている。この「廃業をするかもしれない」と答えた人のうち、58%が年収100万円以下だった。ただし年代でみると40~60歳代の回答者も16%おり、低収入の若年層のみが危機感を覚えているわけではないこともうかがえる。

 政府は、インボイスを理由とする免税事業者など個人事業者やフリーランスへの「買いたたき」を禁止しているが、調査ではこれに違反するとみられる事例も多く報告された。「インボイスの発行がない場合、今後の取引をしないという通告が来た」、「毎年頂いているお仕事がインボイス制度が始まるとお願いするのは難しい、と言われました」、「課税業者にならないとその分の値引き等、独占禁止法に抵触するのではと思われるような言葉をかけられた」との回答があった。インボイスがスタートする来年10月に向けて、こうした圧力が今後増えていく可能性も否定できない。

<タックスワンポイント>相続放棄で他の相続人の借金が増える!?  放棄するにしても話し合いは必要

 親の遺産以上に残された借金が多いときなどには、相続人はプラスの財産もマイナスの財産もまとめて受け取りを拒否する「相続放棄」を選ぶことができる。相続放棄は一人ひとりに与えられた権利なので、放棄に当たっては他の相続人と意思統一したり一緒に手続きしたりする必要はない。

 だが実際に放棄する際には最低限、他の相続人と話し合いをしておいたほうがいいだろう。自分が行った相続放棄によって、他の相続人の負担が増える可能性があるからだ。

 例えば借金1億円を残して父親が亡くなったケースで、相続人が妻と子2人だとすると、それぞれが背負う債務は法定相続分に従って妻5千万円(2分の1)、子2人がそれぞれ2500万円(4分の1)だ。

 ここで妻が相続放棄をしたとすると、妻の法定相続分が子2人に配分され、それぞれの法定相続分が2分の1に増える。相続する借金もそれぞれ5千万円となり、放棄前に比べて借金が2倍に増えてしまうわけだ。もちろんプラスの財産も2倍となるため、単純に損をするとは言い切れない。

 一方、相続放棄が他の相続人に影響を及ぼさないこともある。先の例で、2人いる子のうち片方が相続放棄をしたとする。このとき妻の立場からみると、子1人が相続放棄をしたとしても自分の法定相続分は2分の1のままだ。相続する借金も、放棄前と変わらず5千万円のままということになる。ただし放棄をしなかったもう1人の子については、法定相続分が4分の1から2分の1に増えているので、相続する債務は5千万円と2倍に増えてしまっている。

 相続放棄はあくまで個々の相続人の権利ではあるものの、他の相続人にも大きく影響する決断だ。他の家族のことなど知ったことではないという考えでもない限り、事前に関係者全員での話し合いで了解を得ておくべきだろう。

 なお故人の借金が多いケースでは、法定相続分にかかわらず相続人全員が放棄を選びたいと考えることも珍しくない。そうしたときには全員が同じタイミングで相続放棄の手続きを進めたほうがよい。複数の相続人が一緒に相続放棄手続をすれば、裁判所に提出する戸籍謄本類などの添付資料が1通で済み、手間を大きく軽減することができる。

2022年33号(2022/9/29)

<タックスニュース>パタゴニア創業者の自社株寄贈  社会貢献か相続対策か

 米アウトドア用品大手メーカーのパタゴニアの創業者イヴォン・シュイナード氏が、自身の会社の所有権を手離し、環境保全活動を行う非営利団体に寄贈することを発表した。同氏は「地球を守るために活動する人々に最大限の資金を提供する」と目的を語るが、非営利団体への寄付によって同氏は数千億円に上る相続税や譲渡所得税を免れることから、「超富裕層の相続税対策に過ぎない」との指摘も受けている。

 シュイナード氏が発表したのは、評価額約30億ドル(約4300億円)といわれるパタゴニア社の株について、創業者一族の価値観を守るために設立した信託機関に2%を寄贈し、残る98%については新たに設立する環境保全団体にすべて無償で渡すというものだ。さらに新団体には、今後パタゴニア社が生み出す収益から年間150億円弱を配分する。今回の寄贈により、同氏は約25億円の贈与税を納めるとされている。

 同氏は今回の決定について、「少数の富裕層と、多くの貧困層という分断された社会構造を改革する『新しい資本主義』に影響を与えるだろう」と強調する。全株式のうち98%の寄贈を受けた非営利団体は、寄付金控除などを受けられない。その代わり法人税が非課税となり、無制限で政治家や政治団体に献金を行うことが可能となる。つまり今回の寄贈により、非課税で年間1億ドルを環境保全支援に充てることが可能となるわけだ。同氏や創業家一族はかねてより熱心な環境保全活動の庇護者として知られており、贈与税を納めてでも社会貢献を選んだとの見方ができる。

 だが一方で、シュイナード氏は自社株の処理方法について、第三者への売却も検討していたと報じられている。もし売却が成立していた場合、同氏が納めるべき譲渡所得税は1千億円を超えていた可能性もある。また自社株が子孫に相続されていたら、その相続税負担は数千億円にも上ったとみられ、今回の自社株寄贈によって同氏はそれらの税負担を免れることとなった。結果だけみれば、同氏や創業者一族はパタゴニア社への実質的な経営権を維持しながら、相続税対策も実行したともいえるだろう。

<タックスワンポイント>病歴を隠しても保険金はもらえる?  重過失なければOK、悪質なら返戻金も没収

 生命保険に加入するときは病歴や健康状態などに関しての告知義務がある。ここで嘘をついてしまうと、保険法上の告知義務違反となり、いざというときに保険金が支払われなくなる可能性があるので、くれぐれも正直に申告してほしい。

 とはいえ、小さな誤りやうっかり記載を忘れたものまでがすべて告知義務違反となるわけではない。どこからが違反となるかの基準は、悪意や重過失があるかどうかにあるようだ。そのため、保険加入前に胃が痛かったが胃腸薬を飲んだら治ったものの、実は胃潰瘍であったというようなケースは悪意や重過失があるとはいえず、違反とはならないので安心してよい。

 また明らかに告知義務に違反していたとしても、(1)保険契約をした日から2年を超えて違反が判明しなかったとき、(2)保険会社が告知義務違反で解除できることを知った日から1カ月以内に解除しなかったとき、(3)告知義務違反に基づかないで保険事故が発生したことを受取人が証明できたとき――には保険会社は契約を解除できない。

 告知義務に違反して契約解除となった場合でも、解約返戻金がある保険であれば、原則として返戻金を受け取ることは可能だ。ただし替え玉を使って医師の診断を受けるなど、告知義務違反の程度が悪質な場合は「詐欺」となり、保険金は一切支払われず、払込済の保険料も返還されず、返戻金も受け取れない。

2022年32号(2022/9/15)

<タックスニュース>相続登記の義務化  6割超が「知らない」

 相続した不動産の登記が2024年4月からは法律上の義務となることを過半数の人が知らないとの調査結果を法務省が発表した。利用する当てのない土地について、一定条件を満たした上で国に帰属させられる新制度についても大半の人が知らなかった。相続登記の義務化は過去の未登記地についても適用されるため多くの人にとって関係のある話だが、周知が進んでいない現状が浮き彫りとなっている。

 調査は法務省が7月下旬に行った。本人、配偶者、親のいずれかが不動産を所有している成人を対象に20代~70代で各世代200人、計1200人から回答を得た。

 調査結果では相続登記の義務化について、「全く知らない」と答えた人が43.1%に上った。「聞いたことがあるがよく知らない」の23.3%を合わせると、約66%の人が制度を知らなかった。世代別にみると、「詳しく知っている」「大体知っている」と答えた人は20代が最も多く、「よく知らない」「全く知らない」と答えた人は40代が最も多かった。50代でも制度内容を知らない割合が高く、近い将来に土地を相続する可能性がある40代~50代の現役世代で周知が進んでいないことが分かった。

 相続登記の義務化に先立ち、23年4月からは、一定条件を満たした上で相続土地を国庫に帰属させることができる「相続土地国庫帰属制度」がスタートする。同制度についての認知度を聞いたところ、「全く知らない」が61.3%と過半数を占め、「よく知らない」の22.7%を合わせると約84%が制度内容を把握していない結果となった。

 一方で、新制度に対して半数近い人が関心を寄せている現状も示されている。相続土地国庫帰属制度についてどの程度関心があるかという質問に対して、各世代で4割ほどの人が「関心がある」と答えた。特に30代では「大いに関心がある」15.5%、「少しは関心がある」34.0%と、ほぼ半数の人が自身に関係のある問題として捉えていることが分かる。

 現在の相続登記は任意で、登記を行うかは相続人の判断に委ねられている。そのため固定資産税などの税負担を避けたり、土地管理の煩わしさから放置したりするケースが後を経たない。そこで所有者不明土地の増加を防ぐため、昨年に成立した改正民法などで、相続登記の義務化と所有権を放棄できる新制度の創設が決まった。

<タックスワンポイント>死因贈与は贈与ではなく相続税の対象に  遺贈と違い相手の承諾必要

 親子間で「父の死亡時に自宅とその敷地が贈与される」という内容の契約を結んで死亡時に実行されるケースのように、誰かの死亡をトリガーとして効力が発生する贈与を「死因贈与」という。

 死因贈与では、一定の決まり事を履行した時に贈与が成立するという取り決めが可能であるため、例えば「最期まで介護をしてくれた場合に贈与する」といった条件を契約に盛り込むことで、被相続人は介護を最後まで投げ出されることがなく、介護をする側は確実に財産を受け取れるという安心を得られるのがメリットだ。

 この死因贈与は、名称に「贈与」とつくものの、贈与税ではなく相続税の対象だ。相続による不動産の引き継ぎであれば、本来は不動産取得税や登録免許税がかからないが、死因贈与で引き継ぐ場合は、これらの税の対象にもなる点に気を付けたい。

 なお、死亡してから財産が引き継がれるのは遺言による「遺贈」も同じだが、遺贈は財産を残す人が一方的に意思表示するのに対し、死因贈与は相手の承諾が必要な契約であるという違いがある。死因贈与の契約を一度結ぶと双方の合意や契約不履行がない限り契約の撤回は許されないので、何度も書き直せる遺言以上に慎重になる必要があるだろう。

2022年31号(2022/9/8)

<タックスニュース>止まぬ大企業の「名ばかり中小化」  エイチ・アイ・エスが1億円に減資

 大手旅行会社エイチ・アイ・エスが、資本金を現在の247億円から1億円まで減らすことを発表した。10月下旬に臨時の株主総会を開いて株主の承認を得る見込み。コロナ禍で多くの企業が経営難に陥るなか、税法上の優遇措置を求めて「名ばかり中小化」を選択する大企業が後を絶たない。

 エイチ・アイ・エスは新型コロナの影響で主力の海外旅行事業の回復が遅れたことなどから厳しい経営状況が続いており、今年4月までの半年間の決算は過去最悪の269億円超の最終赤字に陥った。長崎県にあるテーマパーク「ハウステンボス」の運営会社の株式を香港の投資ファンドに売却することを決めるなど財務の立て直しを急いでいる。

 資本金の減資も財務改善に向けた一連の取り組みのなかのひとつで、エイチ・アイ・エスは「税負担を軽くするためだ」と認めている。法人税法では資本金1億円以下を中小法人、1億円超を大法人と判定し、中小法人には800万円の所得に対する法人税率の軽減、欠損金の繰越控除、法人事業税の外形標準課税の免除など大法人にはないさまざまな税優遇が適用されている。そのほか設備投資に対する減税措置などが上乗せされることもあり、中小法人にのみ認められる優遇税制は数多い。

 コロナ禍で大企業の「中小化」は相次いでおり、すでに航空会社のスカイマークや旅行大手のJTB、全国紙の毎日新聞社、液晶大手のジャパンディスプレイといった有名企業が1億円への減資を実行している。

<タックスワンポイント>マイホーム売却損への救済処置  損失繰り延べは4年が上限

 長引くコロナ禍でも、日本の地価は都心部を中心に回復傾向に転じつつあるようだ。とはいえ地方を見渡せばまだまだ景気が回復したとはとても言えず、不動産を売っても、かつてのような利益を期待できる時代ではない。そのため、転勤などでマイホームの売却を余儀なくされたときなど、多額の損失を抱えてしまう人もいる。

 こうした不動産売却損に対しては救済措置が用意されている。原則として、不動産の売却損をほかの所得と損益通算することはできないが、一定の条件を満たせば、翌年度以降の繰越控除が可能だ。

 例えば、所得1000万円の人が家屋を売却して売却損が3000万円発生すると、差し引き所得がマイナス2000万円となる。売却にかかる利益が出ていないので税金も発生せず、確定申告をする必要もない。

 しかしこうしたケースでも確定申告をしておいたほうがいい。マイホームを買い替えたときや、住宅ローンが残っているマイホームを売って損が出たときに限り、他の種類との損益通算が認められるからだ。さらに通算を行っても損失が残れば、翌年以後3年間にわたって繰り越すこともできる。譲渡年の損益通算と合わせて最大で4年間、所得税・住民税が免除されることもあり得る。

 ただしこれらの救済措置を受けるためには、売却した敷地面積が500平方メートルを超えないこと、売却した年の所得が3千万円を超えないこと、売った相手が親子や夫婦などでないことなどの条件を満たす必要があることには気を付けたい。

2022年30号(2022/9/2)

<タックスニュース>「貯蓄から投資へ」の流れを加速  金融教育で法人減税

 金融庁が、社員向けに金融教育を行う企業に対する減税措置の新設を検討していることが分かった。岸田政権の掲げる「貯蓄から投資へ」の流れを加速させる狙い。金融教育を実施した企業に対し、講師費用やセミナー料金などの一部を法人税額から差し引けるようにするという。減税額は中小企業で5%、大企業で3%となる見込み。詳細は2023年度税制改正要望に盛り込む見通しで、年末にかけて与党税制調査会が検討する。

 岸田文雄首相は5月、国民の預貯金を資産運用に誘導する「資産所得倍増プラン」を発表し、仕組みづくりに動いている。背景にあるのは国内の金融資産の伸び率の低迷で、直近10年間の金融資産の推移を見てみると資産運用が活発な米国で3倍、英国で2.3倍に増えているのに対し、預貯金が主流の日本では1.4倍にとどまっているという。岸田首相は「2000兆円ある個人金融資産のうち半分以上が預貯金になっている」ことを問題視し、資産運用を促すための施策を打ち出していく方針だ。

 そのほか、少額投資非課税制度(NISA)の拡充や暗号資産の課税方式の見直しも検討するという。

<タックスワンポイント>貯蓄型保険利回りだけで判断はNG  全額が運用されるわけじゃない!

 高齢社会化による公的年金制度への不安や、世界的な物価高騰といった経済情勢の変化を受けて、生命保険の持つ「金融商品」としての機能に再注目する人が増えている。従来のような定期預金や公的年金の積立だけでは老後の安心を確保できず、貯蓄に加えてもしもの時の保障も得られる生命保険が資産運用の手法として求められているわけだ。

 資産運用の手法として貯蓄型保険を選ぶメリットは、保障と貯蓄が同時にできること、銀行の定期預金よりは利回りがいいこと、株やFXのような損失リスクを抱えず着実に資産形成ができることなどの点が挙げられる。一方デメリットもあり、保険料が高く、想定していたタイミング以外での途中解約は元本割れのリスクがあること、資産形成に長期間を要するためインフレリスクをはらむことなどがあるだろう。

 これらをまとめると、貯蓄型保険はおおむね、「保険が必要で、できればお金も貯めていきたい」、「お金の運用を他人に任せたい」、「投機的ではなく安定して長期にお金を貯めていきたい」といった要望がある人に向いている。逆に、「短期間での資産拡大を望む」「資産をハイリスク・ハイリターンで運用したい」という人には、他の手法が向いているだろう。

 数ある貯蓄型保険のなかから一つを選ぶ上では、やはり「予定利率」が気になるところだ。予定利率は保険会社が契約者に対して約束する利率のことで、「予定」と言うものの、ほぼ確定と理解しても差し支えない。この予定利率が高い保険ほど資産形成する上では有利になるので、なるべく予定利率が1%でも高い保険商品を選択したいところだ。

 ただし、支払保険料の全てが運用に回されるわけではないことに注意が必要だ。支払った保険料は、死亡保険金に備える部分、満期保険金などの支払いのために運用される部分、保険会社の経費や儲けに充てる部分の3つの用途に使われることになる。死亡保険金に備える部分と保険会社の経費や儲けになる部分は運用に回されずに費消されるわけだ。

 例えば100万円の保険料を支払っていても、死亡保険金用に5万円、保険会社の経費などに5万円を充当していれば、実際に運用されるのは残る90万円となる。予定利率2%で5年間の運用をすれば、運用益は90万円×2%×5年間=9万円となり、元本90万円にプラスされ満期保険金は99万円となるわけだ。このタイミングで満期保険金を受け取っても、支払った保険料100万円に対しては元本割れとなってしまう。貯蓄型保険を契約する際は、単純に予定利率のみで判断せず、支払保険料に対する満期保険金の実際の支払い額をチェックすることを忘れないようにしたい。

2022年29号(2022/8/25)

<タックスニュース>旧統一教会問題  “お布施”無税に異論噴出

 今年7月に安倍晋三元首相が銃撃されて死亡した事件以降、宗教法人の税制を巡る議論が噴出している。安倍氏の殺人容疑で送検された容疑者の母親は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)へ多額の献金をして自己破産していたことがわかっており、容疑者は「団体を恨んでいた」と供述しているという。宗教法人は「お布施」など多額の献金があっても法人税が非課税など、税制上の優遇措置を受けているが、この制度の見直しを求める声が上がっている。

 宗教法人は公益法人に位置づけられており、法人税や固定資産税が非課税となっている。収益事業を実施した場合は課税対象となるが、お守りなどの物品を販売しても喜捨と認められれば課税されない。営利法人と違って宗教法人や学校法人、医療法人などの公益法人は利益を出すことをそもそも目的とはしていないためだ。こうした措置に対し、SNS上では「宗教法人にも課税すべきだ」といった意見が出ている。

 「消費者金融も、返せない金額は借りられないようにしている。寄付行為もある程度のアッパー(上限)を決めていくべきだ」。旧統一教会を巡る一連の報道を受け、日本維新の会の松井一郎代表(当時)は7月下旬、宗教法人への寄付を所得に応じて上限を定めるべきとして、秋の臨時国会に法案を提出する意向を示した。

 一方、戦前の宗教弾圧への反省から、憲法でも信教の自由が保障されており、宗教法人活動に対して国や行政の介入の度合いを高めることは容易ではない。関係省庁の幹部は「問題は税制ではなく、悪徳商法をしている団体をどうするか議論すべきだ」と話す。

<タックスワンポイント>入院中の老親が公正証書遺言を残す方法  自宅や病院まで公証人の出張制度

 公正証書遺言は、全文を自筆で書く「自筆証書遺言」と違い、作成のプロである公証人が関わるので基本的に不備は発生しない。確実に自分の思いを次世代に残すには最善の手法といえる。

 この公正証書遺言は、遺言のプロである「公証人」に作成してもらう仕組みだ。そのため遺言を残す人が公証役場まで出向くのが原則となっている。だが遺言者が入院していたり、あるいは身体が不自由であったりといった理由で公証役場まで行くことができなければ、公証人に病院や自宅に出張してもらうことが可能だ。公証人に出張してもらう際は、通常の公正証書作成の手数料のほかに、証書作成費用の半額の「病床執務手数料」や公証人の日当、また交通費が別途必要になる。

 なお公正証書遺言の作成の際には、2人以上の証人の立ち合いが必要になるが、未成年者や推定相続人は証人になれない。遺言の内容を身内に知られたくないなど、どうしても証人になってくれる人が見つからないときは、公証役場が人を紹介してくれるので相談すればいい。病院で作るなら、医師や看護師が証人となるケースも多い。弁護士などの専門家に立ち合いを頼むという方法もあるが、弁護士のなかには強引に自分を後見人として売り込んでくる者もあるため注意が必要だ。

 入院中に作成した遺言が自筆だと、その作成時における判断能力の有無などから遺言の有効性について争われることもある。費用はかかるものの、公正証書遺言のほうがトラブルは減るだろう。

2022年28号(2022/8/18)

<タックスニュース>競馬で荒稼ぎの自営業男性  1億円を無申告

 熊本国税局は、競馬で得た所得約1億円を申告せずに約3200万円を脱税していたとして、熊本市の自営業者の男性を所得税法違反の疑いで熊本地検に告発したことを発表した。

 当局によると、男性は馬券の自動購入ソフトを活用してインターネット経由で馬券を購入し利益を得ていたが、2018年までの3年間の所得を申告していなかった。男性は不正に得た資金を外国為替証拠金取引(FX取引)に使用していたという。FX取引の所得については正しく申告していた。

 馬券のネット購入システムの普及や人気ソーシャルゲームによる広告宣伝効果により競馬人気が沸騰するなか、競馬がらみの税務調査で高額な申告漏れが指摘されるケースが目立っている。

 競馬予想のコラム連載を持つなど筋金入りのファンとして知られるお笑い芸人の「じゃい」さんは今年6月、ハズレ馬券の購入費用を所得から差し引いていたことを理由に多額の追徴課税を課されたことをユーチューブ上で発表した。また、5月には競馬の勝ち馬を予想するソフトを販売して得た所得4100万円を隠していた東京都内の業者が東京地検に告発された。

 日本中央競馬会(JRA)によると、2021年度の馬券購入金額は3兆911億円に上り、10年連続で前年度を上回った。クレカ購入のできる「JRAダイレクト」が導入された翌年から馬券売上が上昇に転じた。近年はコロナ禍で人気を博したソーシャルゲーム「ウマ娘」やタレントを起用した広告宣伝戦略が奏功し、オグリキャップや武豊騎手による平成の競馬ブームで記録した売上ピーク4兆円に迫りつつある。

<タックスワンポイント>創業記念品は商品券なら給与扱い  旅行券と商品券の微妙な違い

 創業10周年などの区切りを記念して従業員に記念品を支給する時には、その価値と内容に気を付けたい。物によっては、せっかくの記念品が「給与」と認定されて、従業員に余分な所得税が課されてしまうからだ。

 会社が創業10周年などのタイミングで記念品を支給したり、長く勤続した社員に対してプレゼントを贈呈したりすることは広く一般で行われているため、一定の要件を満たせば給与とみなされず所得税が課されない。その要件とは、(1)支給する記念品が社会通念上記念品としてふさわしいもので、かつ創業記念品なら価額が1万円以下のものであること、(2)一定期間ごとに支給する記念品については、おおむね5年以上の間隔を空けて支給すること、(3)永年勤続者に対する記念品については、勤続年数がおおむね10年以上の人間に支給することとなっている。

 このうち特に気を付けたいのは(1)の「記念品としてふさわしいもの」だろう。よくある社名入りのペンや置時計などは、もちろん非課税となる。永年勤続者へのプレゼントであれば、よほど高額でなければ旅行券や観劇代の負担なども問題ない。一方で、これが商品券となると、全額が給与と取り扱われてしまうので注意が必要だ。旅行券がOKで商品券がNGとはなかなか微妙な違いだが、おそらく永年勤続者に対して旅行をプレゼントすることは広く行われているため、換金性があるうちでも例外として非課税措置を認められているのだと思われる。もちろん旅行に実際に行ったことを証明するため、旅費の領収書などはしっかり保管しておくことを忘れないようにしたい。

 もう一つ注意したいのが、創業記念品であれ永年勤続者へのプレゼントであれ、複数ある記念品のなかから本人が自由に選べる形式だと、全額が給与として課税されてしまうことだ。せっかくの記念品に税金が課されて社員との間にしこりを残さないためにも、税務面での要件を満たして気持ちよく振る舞いたいところだ。

2022年27号(2022/8/10)

<タックスニュース>21年度ふるさと納税総額  過去最高の8302億円

 ふるさと納税の2021年度の寄付総額が8302億円に上り、過去最高となった。総務省が7月29日に発表した。制度が始まった2008年度の100倍超となり、寄付件数も4447万3000件で過去最高を記録した。

 納税額が最も多かったのは、北海道紋別市で152億9700万円。宮崎県都城市が146億1600万円、北海道根室市が146億500万円と続いた。

 制度の活用が堅調に伸びている一方、現行の制度を巡るトラブルや批判もある。

 翌年度の住民税控除額は、横浜市が230億円で最多。名古屋市が143億円、大阪市が123億円と続き、都市部の税収減が目立った。自治体関係者からは減収を懸念する声も出ている。東京都荒川区は区のホームページに「現在の制度は本来趣旨から逸脱している」とする文書を掲載し、住民税の流出によって公共サービスの持続に支障をきたす可能性があると指摘している。都内23区の区長でつくる特別区長会でも、総務大臣へ制度を改正するよう要望をしている。

 また、制度の導入以降、返礼品競争が激しくなっていたことを受け、総務省は2019年6月、自治体からの返礼品を「寄付額の3割以下の地場産品」に制限し、従わない自治体を税優遇の対象から外す新制度に移行。これによって一定程度、問題は沈静化されたが、今年に入ってからも宮崎県都農町と兵庫県洲本市が基準違反で除外された。さらに6月には、返礼品の代わりに現金を還元する仲介事業者が問題となり、自治体が事業者を利用するのを禁止とした。

 金子恭之総務大臣はこうした自治体からの批判について7月29日の記者会見で問われ、「ふるさと納税が地域経済の活性化につながっていることも事実。現行制度のもとで今後とも適正に運用されるよう取り組んでいく」と述べている。

<タックスワンポイント>路線価の発表は相続税にどう影響する?  路線価イコール評価額ではない

 毎年7月になると相続税路線価が公表される。相続税路線価はその名前の通り、一定の範囲内の道路(路線)に面した土地を評価するものだ。国土交通省が毎年3月に発表する「公示地価」の8割程度の価額が目安とされ、今年1月1日から12月31日までの間に相続や贈与で受け取った土地に、今回発表された路線価を基にした税額が適用される。相続税路線価の上昇は、土地所有者の税負担増を意味しているとも言える。

 もっとも相続税路線価は相続税の税額計算に使われるが、路線価がそのまま価額となるわけではない。同じ道路沿いにある同じ面積の土地でも、その形状や利便性は場所によって異なるからだ。具体的に路線価から評価額を計算するときには、「奥行」と「間口」に応じて補正率をかけ合わせることになる。奥行が極端に短かったり、間口が狭すぎたりするケースでは土地の使い勝手が悪いとして評価額が減額される。他にも土地が台形であるケースや傾斜地であるケースでも、減額補正がされることになる。逆にプラスの補正がかかるのは、角地や2つの道路に挟まれている土地で、これらの土地は利便性が高いと判断され、評価額も高くなる。ただしこうした補正を適用できるか否かは評価者によって判断の分かれるところで、国税当局と納税者の間でも争いになりやすいポイントだ。減額されると思い込んで相続対策を怠ると痛い目をみる可能性もあるので気を付けたい。

 路線価が表すのは、あくまで土地の値段であり、その上に何が建っているかはまったく関係ない。この仕組みを利用した相続税対策の一つに、いわゆる「タワマン節税」がある。マンションを評価する際にも相続税路線価が使われるが、そこに階層の違いはなく、評価額は1階でも30階でも同一となる。しかし実際には眺望がよい高層階ほど高い値段が付く。そこで相続前に高価格の高層階を購入しておき、1階と同負担の相続税を支払った上で売却して差額を得るという方法だ。もっともタワマン節税に対しては国税当局が厳しく目を光らせていて、あまりにも実売価格と評価額に大きな開きがあるケースに対して、「著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」という個別規定、いわゆる「総則6項」を使って厳しく取り締まっている。タワマン節税を考えている人は、こうした否認リスクまで考慮した上で、活用を検討すべきだろう。

2022年26号(2022/8/5)

<タックスニュース>マイナンバーカード未取得者に3度目の要請  「利便性向上が先」の声も

 普及率が伸び悩むマイナンバーカードの普及を目指し、政府は未取得者に対して、QRコード付きの申請書を発送し取得を呼び掛けることを決めた。同様の取り組みはこれで3度目となる。今年度中にほぼ全国民への普及を目指す国はあの手この手を講じるが、「取得率を上げるためにはカードの利便性向上が先」との声も聞こえてくる。

 マイナンバーカードを普及させるべく、政府が躍起だ。6月30日からは、最大で2万円分のポイント還元が受けられる「マイナポイント第2弾」が始まった。だがそれでも7月24日時点まででカード取得率は45.7%にとどまっているのが現状だ。制度開始直後の低調ぶりからすれば長足の進歩だが、今年度中にほぼ全国民にカードを行き渡らせるという岸田政権の目標からすれば進捗ははかばかしくない。

 こうしたなか総務省は、カードを取得していない約5500万人を対象にQRコード付きの申請書を送ることを決定した。すでに26日から開始し、9月上旬までかけて発送を行うという。申請書に書かれたQRコードをスマートフォンなどで読み取り、メールアドレスや生年月日を入力、顔写真データを添付すれば申請できる仕組みだ。返信用の封筒も同封され、郵送でも申請できる。

 未取得者に対する申請書の郵送はこれで3度目だが、そもそも取得率が伸び悩む原因はカードの利便性が低いためとの声も多い。

 財務省が7月26日に公表した予算執行調査では、過半数を超える自治体からカードの利便性向上を求める声が寄せられた。自治体からは「マイナンバーカード利活用の幅が少なく、マイナンバーカードに興味を持っていない市民に対し取得するメリットを伝えられない」、「取得ばかりに専念してもカードの普及には限界が来るので、利便性向上に向けたシステムづくり、そして広報を進めていき、取得から利用へとつなげることが重要である」、「カード取得後のメリットや社会の未来像などを継続して周知・広報していくことが課題」などの声が上がった。これを踏まえ調査では、「自治体の申請・交付体制の強化を図るのみならず、政府全体としてカードの利便性向上等をできる限り早急に図るべきではないか」と厳しい評価が下されている。

<タックスワンポイント>ふるさと納税の返礼品にも税金はかかる  高額納税者の恩恵と注意点

 テレビや雑誌などでは、ふるさと納税制度について「寄付をすると、わが家でも高級な牛肉が食べられます」などと、低所得~中所得世帯にとってありがたい制度のような説明をしていることが多い。しかし同制度で本当に得をするのは間違いなく高所得者層だ。

 その理由は、同制度の「寄付上限」の仕組みにある。ふるさと納税は、自分の住む地域以外に寄付をすると、手数料2千円を差し引いた残額が本来住んでいる土地に納めるべき住民税などから差し引かれるという制度だ。だが差し引かれる額には上限があり、住民税のうち所得割額の20%を超えた寄付は、何の税優遇も受けられない純然たる寄付となってしまう。

 仮に寄付上限100万円の人が満額を寄付したとすると、98万8千円分は本来自分が納める税額から差し引かれることになる。この「2千円負担」は所得にかかわらず一律なため、2千円を引いた額が多い、つまり所得が多い人ほど税金と相殺できる額も多いわけだ。

 もっとも、ここまでなら所得による「差」は生じない。どこか自治体に寄付をすると、寄付した分だけ本来納めるべき税金が差し引かれるというだけで、損も得もそこにはない。しかし「返礼品」が絡むと話は変わってくる。寄付金額の多寡を問わず、寄付者の実質負担は2千円で変わらない。にもかかわらず、寄付金額が高ければ高いほど返礼品の内容は豪華になる。これが、高所得者こそがふるさと納税制度の恩恵を最大限に受け取れるという理由だ。

 ただし高額納税者は、返礼品の「税金」に注意を払わなくてはいけない。ふるさと納税の返礼品はれっきとした収入に当たり、所得税の対象となる。税金がかかる境界線はずばり50万円で、受け取った返礼品の価値が50万円を超えるなら、所得税が課される。注意が必要なのは、返礼品が50万円以下であっても必ず非課税になるとは言い切れない点だ。非課税になるのは、返礼品などが含まれる所得税法上の「一時所得」の総額が50万円以下の場合に限られる。返礼品以外の一時所得があるなら、その分が加算され、50万円を超えると課税対象になってしまう。

 難しいのは、返礼品に値札が付いているわけではないので、いつ50万円を超えたかが分からないことだろう。こればかりは自治体に聞くしかないらしく、どうも50万円を超えていそうだと思うなら、返礼品の価格を直接問い合わせるしかない。面倒くさいが、過去にはふるさと納税の返礼品収入に税務調査が入った例もゼロではない。気持ちよく返礼品を受け取るためにも、税務面はクリアにしておきたい。

2022年25号(2022/7/22)

<タックスニュース>インボイス制度の理解  経理マンでわずか3割

 2023年10月に始まるインボイス制度(適格請求書等保存方式)について、「理解している」と答えた経理・財務担当者が3割にとどまっているとの調査結果を、クラウド会計ソフト開発のfreeeが公表した。

 インボイス制度への理解度に自信のある担当者は、「深く理解している」(4.7%)、「理解している」(27.6 %)と合わせて32.3%だった。法人の規模別に見てみると、大企業では39.7%が理解しているが、中堅企業では33.1%、小規模企業では24.7%となっており、freeeは「インボイス制度で不利益を受けやすい小規模法人で理解が進んでいない」と問題視している。

 インボイス制度について知っている内容を問う質問では、「インボイスを発行するには税務署への申請が必要」(47.3%)、「課税事業者のみインボイスを発行できる」(38.9%)など、インボイスを発行する売り手側の対応については一定の認知が進んでいるという。一方、「3万円未満の支払でもインボイスを保存しなければならない」(21.5%)、「免税事業者との取引について、仕入税額控除の経過措置が設けられている」(19.4%)など、インボイスを受け取る買い手側の対応については理解度が低い傾向が見られた。

 調査は法人に勤めている経理・財務担当者490人を対象に実施したもの。

<タックスワンポイント>「おしどり贈与」を使わない方がよいケース  不動産取得税や免許税に注意

 結婚して20年以上の夫婦間での住宅や住宅資金の贈与は、贈与税の年間控除枠の110万円に加え、別枠で2千万円までを課税対象から除外する特例を利用することが可能だ。この特例は、雌雄が常に一緒に過ごすとされるおしどりの名前から“おしどり贈与”とも呼ばれる。長期にわたって一緒にいるからといって必ずしも仲睦まじい関係を続けられているとは限らないが、税負担が減るのであれば税特例を活用したい。

 ただ、制度を利用することでかえって支出が増えることもある。住宅の贈与の際に掛かる不動産取得税や登録免許税、専門家への報酬を合計すると何十万円もの支払いが生じることを踏まえたうえで制度を利用する必要がある。

 まず、住宅を贈与で受けた人は名義変更の際には土地や住宅の固定資産税評価額の3%分の「不動産取得税」を支払わなければならないが、これに対して相続で住宅を受け取れば、不動産取得税はかからない。

 さらに所有権の移転登記にかかる「登録免許税」は、贈与で住宅を受け取れば不動産の価格の2%だが、相続なら0.4%に下がる。いずれも相続より贈与で受け渡した方が高くつく。

 このほかにも、贈与の際に税務申告や登記手続きの代理を税理士や司法書士に依頼し、その後に相続が発生した際にも再び専門家に依頼するとなると、贈与をせずに相続時だけに手続きの代理を依頼した人と比べて支払う報酬総額が割高になりやすい。

 そもそもおしどり贈与の目的は生前に無税で贈与することで将来の相続税の負担を減らすことにあるが、夫婦間の相続では1億6千万円までの相続財産には相続税が課税されないため、生前贈与をしなくても相続税がゼロとなる可能性は十分あり得る。

 ちなみにおしどり贈与は、同じ相手につき一度しか使えない。利用した後に離婚して別の相手と再婚をすれば適用が可能だが、さらに20年の歳月が必要となる。

2022年24号(2022/7/14)

<タックスニュース>相続税路線価が2年ぶりに上昇  最高価格は37年連続で「鳩居堂前」

 国税庁は7月1日、2022年分の相続税路線価を公表した。全国平均は前年分を0.5%上回り、コロナ禍でマイナスに落ち込んだ前年から再び上昇に転じた。感染者数が減少し、コロナ禍の影響から回復しつつある状況だ。ただインバウンド需要が戻りきっていない観光地やテレワーク増加でかげりの見えるオフィスエリアなどでは下落が続く地点も多く、今後は見通せない。

 都道府県別では、地方を中心に27県で下落した一方、前年より13都府県多い20都道府県で上昇した。最も伸び率が高かったのは北海道がプラス4.0%で、福岡3.6%、宮城2.9%と続く。東京や大阪、愛知など前年はマイナスだった都市圏も多くが上昇に転じた。

 また都道府県庁所在地の最高路線価をみても、前年より7都市多い15都市で上昇している。最も上昇幅が大きかったのは駅周辺の再開発が進む千葉市のプラス5.1%。以下、札幌市4.8%や広島市3.5%が続いた。

 路線価の全国1位は、37年連続で東京都・銀座5丁目の文具店「鳩居堂」前にある銀座中央通りだった。ただし価格は1平方メートルあたり4224万円で、9年ぶりに下落した昨年からさらに1.1%下落した。

 相続税路線価は、毎年1月1日時点での一定の範囲内の道路(路線)に面した土地を評価するもので、国税庁が1年に1度この時期に公表している。国土交通省が毎年3月に発表する「公示地価」の8割程度の価額が目安とされ、今年1月1日から12月31日までの間に相続や贈与で受け取った土地に、今回発表された路線価を基にした税額が適用される。相続税路線価の上昇は、そのまま相続財産としての価値の増加につながるため、全国的な上昇傾向は土地所有者の税負担増を意味しているとも言えるだろう。路線価には、各市町村が原則3年ごとに発表して固定資産税の算定基準とする「固定資産税路線価」もあるが、一般的に「路線価」と言えば、相続税路線価を指すことが多い。

<タックスワンポイント>業務中の駐車違反、罰金の税務処理  レッカー費用は損金算入が可能

 駐車違反に対する罰金は、かつては運転者だけが払うものだった。しかし、2006年の道路交通法改正で「放置違反金」という制度が登場し、現在では運転者が払わない時には、車検証に記載された「所有者」が罰金を払うことになっている。これが社用車であれば、その所有者、つまり会社が支払い義務を負うことになる。

 もし従業員が業務時間中に駐車違反でキップを切られてしまったら、会社としてはどう対応すべきか。結論から言ってしまえば、法律で「業務中の交通違反の罰金は会社が払わなければならない」という規定があるわけではないので、従業員の違反に対する罰金を払ってあげるかどうかは会社による。もっとも客回りをメイン業務とする営業マンなどは、どうしても路上駐車をしがちになってしまうこともあり、よほど従業員に過失がない限りは会社負担としている所も多いのではないだろうか。

 社用車の交通違反で発生した反則金やレッカー費用を会社が負担した時の会計処理には、「業務上の必要性」が大きく関わってくる。例えば交通違反の内容が業務の遂行に関連があると認められれば、会社が負担した交通反則金は、会社自身に課せられた罰金と同様に取り扱い、損金には算入できない。その理由は、罰金を損金として認めてしまうと違反者に対する罰則の効果がなくなるからだと言われる。ただしレッカー費用については、実費負担という意味合いから罰金扱いにはならず、業務に関係ある交通違反でも損金算入が可能だ。

 一方、交通違反の内容が業務の遂行に関連がないのであれば、罰金は駐車違反した個人が負担すべき費用ということになる。レッカー費用も同様で、これらの支出を会社が負担すると、その従業員への「給与」とみなされる。もちろん給与である以上は従業員個人には所得税が課されるが、会社にとっては損金算入ができる支出ということだ。一点注意したいのは、罰金を肩代わりしてもらったのが役員だと、臨時の「役員報酬」扱いとなってしまうことだ。この場合、肩代わりした罰金やレッカー代は会社の損金に含められず、役員の所得税も増えることとなるので気を付けたい。

2022年23号(2022/7/8)

<タックスニュース>仲間由紀恵さんは7000万円の稼ぎ  芸能界でも人気の軍用地投資

 沖縄県出身の女優の仲間由紀恵さんが、地元沖縄の「軍用地投資」で約7000万円の収入を得ていると、週刊新潮が報じた。同じ沖縄出身の芸能人で現参院議員の今井絵理子氏も軍用地投資をしていることも報じられている。数多くの芸能人が手を出している「軍用地投資」は、相続対策として富裕層からも注目されている。

 週刊新潮によれば、仲間さんは2007年に沖縄県浦添市の米軍基地キャンプ・キンザー内の北東部に位置する800平方メートルほどの土地を、所属する事務所と共同で購入した。キャンプ・キンザーは2年後からの返還が予定されていることから、浦添市が跡地利用のために昨年購入し、その際に仲間さんは約7000万円の売却益を得たという。

 自衛隊や米軍の基地などが建つ「軍用地」は、すべてが国有地というわけではなく、一部は民間の法人や個人から借り上げて利用するという形をとっている。その際にはもちろん賃料が発生するので、それを目当てに軍用地をわざわざ購入する不動産オーナーも多い。

 通常の賃貸アパートなどへの投資と比べた時に、軍用地を選ぶメリットとしては、空室リスクが存在せず確実に国から安定した賃料収入が得られること、そのため銀行からの担保評価が高くお金を借りやすいこと、賃料に当たる借地料が定期預金の金利の3倍前後のペースで上がり続けること、修繕・リフォームといった維持費がほとんどかからないことなどがある。また軍用地は通常の事業用地に比べて固定資産税評価額が低く計算されるルールがあるため、それを基に算出する相続税も大幅に抑えることができる点も人気の秘訣だ。

 こう聞くと良いことずくめな気がするが、もちろん欠点もある。軍用地は国の防衛戦略によって成り立つだけに、将来的に日本や米国の政策変更によって返還される可能性を常にはらんでいる。返還後に大規模リゾート施設建設などの計画があるなら、今回の仲間さんのケースのように多額の売却益が見込めるが、そうでなければ「原っぱ」に戻ってしまう可能性もゼロではない。また単純に利回りだけを見ると、軍用地の表面利回りは平均2%前後と、通常の賃貸アパートにかなり見劣りするという短所もある。そして軍用地の面積は限られているため、既存のオーナーが手放したとしても、すぐ買い手がつき、なかなかオーナーになることが難しいということもあるだろう。

 総じて利回りは低いものの安定性が高く、相続税対策として有効というのが、軍用地投資の特徴だ。将来の相続税対策を見込んだ長期保有を目指して、軍用地が売りに出るチャンスを狙っている投資家は少なくない。

<タックスワンポイント>長年貯めたへそくりが相続税の対象に  配偶者控除は申告が前提

 結婚後ずっと収入がない妻の名義となっている高額な預金が「名義預金」と判断され、実質的に夫の財産だったとして相続税がかかることがある。これはへそくりについても同様に考えてよい。夫に先立たれた専業主婦が、コツコツ貯めたへそくりを生活費に充てようとしたところ、税務署から待ったがかかってしまう可能性はゼロではない。

 性善説に立てば、コツコツと貯めた妻の資産であるが、当局からすれば、亡き夫が将来の相続税の軽減を意図してあらかじめ妻名義の口座へ振り込んでいたと考えることもできる。夫の稼いだ財産を妻が勝手に自分の名義の口座に隠していたという仮説も成り立つだろう。

 仮に夫とのあいだで「余った生活費は君が自由に使っていいよ」という口約束があったとしても、それだけをもって妻の財産と認めさせるのは難しい。同様に子ども名義の預金であっても、年齢の割に高額であれば、やはり名義預金とされる可能性が高いといえる。

 こうした税負担を避けるには、やはり適正に贈与契約を結んで贈与を実行していることが望ましい。正当な贈与であれば、年間110万円までなら課税されることはない。ここでいう「正当な」とは、贈与契約書を作成することだけではなく、贈与後はお金をもらった者が預金通帳、銀行印、キャッシュカードを管理して、お金を独自に運用しているなど、名義だけではなく実質的にお金をもらった者にその財産が管理、運用されている状態になっていることだ。


 なお相続税では、1億6000万円までの配偶者控除が認められている。だからといって、へそくりを含めた財産がそれ以下だと何の対策もしない人がいるが、この配偶者控除はあくまでも申告書を提出することが前提であることを忘れないようにしたい。

2022年22号(2022/7/1)

<タックスニュース>競馬所得で巨額追徴のじゃい  国税当局に不服申立て

 競馬の当選金に対して多額の追徴課税処分を受けたお笑いトリオ・インスタントジョンソンの「じゃい」が、国税不服審判所に不服申し立てを行ったことを明らかにした。異議が認められる可能性が低いことは認識した上で、「自分が声を上げることで一つの提言にしたい」と思いを語った。

 じゃいは、2020年12月に競馬の予想を的中させ、6410万円の払い戻しを受け、それをユーチューブの自身のチャンネルで報告していた。その後、競馬で得た所得について確定申告を行ったが、ハズレ馬券の購入費用を所得から差し引いていたことから税務調査を受け、高額の追徴課税を受けた。その額は「マンションを買えるくらい」だったという。妻や親から借金をして納税をしたといい、税制への不満をあらわにしていた。

 今回の不服申立てについて、じゃいはスポーツ紙の取材に対して、「当たっても税金を取られてマイナスになるなら、競馬をやる人がいなくなる」と懸念。「正直、裁判はしたくないけど自分が動くことで何か変われば。30年以上楽しませてもらっている競馬界を盛り上げたい」と話した。じゃいのもとには弁護士費用などとして約6000人から260万円を超える寄付が集まっているという。

 ただ今回の申し立てで、異議が認められる可能性は限りなく低い。競馬に限らず公営ギャンブルの当選金は所得税法上、原則として懸賞金や拾得物の謝礼などと同じ「一時所得」に該当し、経費として申告できる金額はごく一部に限られている。競馬の当選金が一時所得に当たらないと認められる例外もあるが、網羅的な馬券購入、恒常的な利益計上など厳しい条件が設けられていて、今回のケースはこれらに該当しないとみられる。じゃいは勝率の低さは認識した上で、公営ギャンブルを巡る税制議論に一石を投じる狙いだ。

 競馬の税金に対しては、ハズレ馬券の扱いだけでなく、そもそも「二重課税」との声もある。馬券購入者は購入時に約10%の国庫納付金の“テラ銭”を払っているため、このテラ銭が差し引かれた当たり馬券に対して所得税を課すのは、二重課税に当たるとの見方だ。

<タックスワンポイント>利用者増えるiDeCoのリスクとは  減らすべきはやっぱり「固定費」

 老後の資産形成を助ける手法として、iDeCo(確定拠出年金制度)の利用者が増えている。最大の特徴は何といっても掛金として払い込んだ全額が所得から控除されることで、さらに積立金で得た配当や利子も非課税、受給時にも手厚い税優遇が付いてくるのがiDeCoの魅力となっている。

 とはいえ、iDeCoも様々な注意点がある。まずiDeCoには「加入できるのは65歳未満」という年齢上限が設けられている(今後上限は引き上げ予定)。また、あくまで老後の資産を積み立てるものであるという理由から、現在は60歳になるまで払い出しができない。

 さらに勘違いしやすいのが、iDeCoはNISAと異なり、税優遇はあっても受取時の所得税は免れないということだ。退職金として一度に受け取れば退職所得控除、年金として少しずつ受け取れば公的年金等控除という優遇は受けられるものの、所得税自体はかかるため、他に受け取る退職金や年金が高額だと、iDeCoについては税優遇をまったく受けられないということもあり得る。

 そしてiDeCoは年金制度といっても、実際にやることは投資だ。大きく得をする可能性がある一方で、損をするリスクも存在するわけだ。老後のために積み立てたお金がなくなってしまう可能性もゼロではないことを忘れてはいけない。

 ではiDeCoで利益を出すためには何が重要だろうか。もちろん価値が上がる銘柄や金融商品が分かれば苦労はないが、そんなことが可能であれば、iDeCoを使わなくても大富豪になれるだろう。神ならぬ人の身としては、堅実に〝固定費〟を減らすことを考えたい。家計を見直す時も最初にチェックするのは月々の固定費であるように、投資の世界でも固定費の削減は安定した利益形成の第一歩だ。そしてiDeCoにおける固定費とは、証券会社などに払う「手数料」に他ならない。

 手数料には加入時にかかる料金以外にも、月々の口座管理手数料、さらには金融商品ごとの商品手数料や信託報酬というものもある。ひとつひとつは少額でも、積み重なれば小さくないランニングコストとなり、長期間をかけて財産を形成していくiDeCoにとっては無視できない負担となるので気を付けたい。

2022年21号(2022/6/17)

<タックスニュース>NISA拡充で投資を促進  家計資産2000兆円を市場へ

 政府が5月31日の新しい資本主義実現会議(議長・岸田文雄首相)で示した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」の原案で、NISA(少額投資非課税制度)とiDeCo(イデコ=個人型確定拠出年金)の制度拡充案が盛り込まれた。家計の金融資産が2000兆円に達する中、「貯蓄から投資へ」の流れを加速させて日本経済の活性化につなげたい考えで、年内をメドに「資産所得倍増プラン」としてまとめる方針だ。

 NISAは株式や投資信託などでの運用益が非課税になる制度で、「一般NISA」と「つみたてNISA」の2種類がある。一方、イデコは将来に向けて毎月掛け金を掛け、自分で年金を作る制度。NISAと同様、通常の金融商品にかかる運用益が非課税となる。NISAとの税制上の違いとしては、掛金が全額所得控除の対象となり、所得税と住民税の節税効果が得られる点が挙げられる。また、資産を受け取る際にも、「退職所得控除」や「公的年金等控除」の対象となる。どちらも、運用して得た利益を非課税とすることで、国民がより資産形成を始めやすいようにと国が作った制度だ。

 イデコをめぐっては、加入対象年齢を現行の64歳以下から65歳以上に引き上げる。政府は昨年施行した改正高年齢者雇用安定法で、企業に対し労働者が70 歳まで働けるよう努力義務を課しており、これに沿った措置だ。NISAについては、現行は2023年までとなっている制度の恒久化や、年間拠出額の上限の300万円程度(現在は約120万円)への引き上げなどが検討されている。

 岸田政権は、賃上げで家計の所得を増やすことに加えて、預貯金を投資に向かわせることで、持続的な企業価値向上の恩恵を家計にもたらす好循環を作り出したい狙いだ。

<タックスワンポイント>遺言で遺産分割を禁止できる  デメリットも多いので慎重な検討が必要

 遺言を残すと遺産分割の内容に大きな影響力を及ぼすことができるのは知られた話だが、遺産分割そのものを遺言で禁止できることをご存じだろうか。分割を禁止されると、それぞれの相続人がいかに財産を欲しくても分割協議を行えない。遺産は相続人全員の共有状態となり、特定の誰かのものにはならない。この遺産分割の禁止は、遺産分割の過程で起こり得る争族トラブルを防ぐために認められているルールだが、利用する上では注意すべき点も多いので制度内容をしっかり把握しておきたい。

 まず押さえておきたい点として、遺産分割の禁止は決して「遺言どおりに遺産を渡すよう強制する」というルールではない。そもそも遺産を渡すこと自体をできなくする仕組みだということを覚えておこう。さらに、遺産分割の禁止は一定期間しかできない。その期間とは原則5年だ。たとえ遺言で分割を禁止しても、それは5年間の効力しか持たない。

 遺産分割はどのようなケースで行われるか。代表的なものは、相続人のなかに未成年者がいる場合だろう。未成年者でも特別代理人を立てることで分割協議を進めることは可能だが、手続きが煩雑で、いらぬトラブルの種にもなりかねない。そこで未成年者が成年するまで遺産分割を禁止し、本人が協議に参加できるようになるのを待つというケースが考えられる。

 相続人間の折り合いが悪くてトラブルが予想されるケースもある。5年で関係性が改善するかは保証できないが、少なくとも頭を冷やす時間が稼げるという意味で検討に値する一手だろう。

 そのほか、相続財産の全容が不明だったり、相続人の確定に時間がかかったりというような場合も、調査期間を設ける目的で遺産分割が禁止されることもある。なお分割の禁止は、遺言で指定する以外にも、関係者全員の合意があるときや、一部の相続人の申し出に基づいて家庭裁判所が認めたときも行われる。

 トラブル防止の観点からは利用価値の高い遺産分割の禁止だが、デメリットも多く存在する点には気を付けたい。例えば分割を禁止された遺産は相続人全員の共有財産となるため、自由に処分したり動かしたりができなくなる。共有財産が自社株であった場合、会社経営に重大な影響を及ぼすことも考えられる。

 さらに分割を禁止しても相続税は待ってくれない。申告期限は相続から10カ月であるため、実際に遺産を受け取っていない状態で、それぞれの相続人は法定相続分に従った税金を納める必要がある。しかも分割が終わっていない財産は、原則として配偶者控除や小規模宅地の特例といった各種の特例を利用できない。分割見込書を提出するか、あるいは後から更正の請求などを行うことで最終的には優遇を受けられるが、手続きが煩雑で一時的には持ち出しになる可能性もある。

 遺産分割の禁止を検討する際にはこうしたデメリットがあることも踏まえ、専門家に相談した上で慎重に検討したい。

2022年20号(2022/6/10)

<タックスニュース>マイナンバー普及促進  従来の保険証を廃止へ

 政府は、現行の健康保険証を将来的に原則廃止し、マイナンバーカードに一本化する方向で検討に入った。6月にまとめる「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)に明記する方向で調整を進める。取得の進まないマイナンバーカードの全国民への普及を実現するため、より踏み込んだ施策を講じる。

 健康保険証とマイナンバーカードの紐付けは、すでに昨年10月に導入されている。当初は昨年3月にスタートする予定だったが、先行して運用を開始した医療機関でトラブルが多発したことを受け、約半年後ろ倒しにした。

 マイナンバーカードに紐付けられた保険証は、専用のカードリーダーを設置した医療機関や保険薬局で使うことができ、過去に処方された薬や健診などの情報が確認できる。しかしマイナンバーカードが利用できる設備を導入済みの医療機関はいまだ全体の2割弱にとどまり、普及しているとはとてもいえない状況だ。

 マイナンバーカードへの統合を踏まえた現行の保険証の廃止は、今になって突然出てきた話ではない。20年11月に自民党の政務調査会とデジタル社会推進本部がまとめた提言では、マイナンバーカードの全国民への普及を実現するため、従来の保険証の将来的な廃止などを要望していた。提言では、マイナンバーカードと健康保険証を紐づけたとしても多くの人がそのまま保険証を使い、カードへの移行が進まない可能性もあるとして、法令で健康保険組合などに課される保険証の発行義務を緩め、「将来的に健康保険証を廃止する」としていた。

 当時の提言では現行の保険証を廃止するタイミングを2030年頃としていたが、今回厚労省が了承した案では、23年度から医療機関に対してカードリーダーの導入を義務付け、24年度中には健康保険組合が健康保険証を発行するかどうかを選択できるようにするなど、スピード感を強めている。

 岸田首相は、今年度中に国民のほぼ全員にマイナンバーカードを行き渡らせる目標を掲げているが、5月1日時点で交付枚数5576万5137枚、交付率は44%と達成にはほど遠い状況だ。先日開かれた全国知事会など地方6団体との協議では「交付推進に協力に取り組むようお願いする」と要請するなど、目標達成に向けて働きかけを強めている。

<タックスワンポイント>相続時精算課税、2年目以降の注意点  申告を忘れると踏んだり蹴ったり

 贈与税の課税制度には、年間110万円までが非課税となる「暦年課税」と、トータル2500万円までの贈与税を非課税とする「相続時精算課税」がある。

 このうち相続時精算課税についてもう少し詳しく説明すると、親や祖父母から贈与を受けた財産について、贈与者の死亡時に相続財産に合算して最終的に相続税で精算する制度だ。何回贈与されても2500万円までなら贈与税が非課税となり、2500万円を超えても一律で20%の贈与税で済む。

 最終的に相続財産に繰り戻して課税するため完全に無税とはいかないのだが、相続発生の際にも贈与時点での評価額で税額を算出するため、贈与から相続の間までに値上がりした財産については相続税の節税になるというわけだ。

 ただし同制度について注意したいのが、制度選択2年目以降の処理だ。相続時精算課税を一度選ぶと二度と暦年贈与には戻れないため、「申告が毎回必要な暦年課税、一度きりの精算課税」と考えてしまいそうだが、そうではない。前述のとおり相続時精算課税は、トータルで贈与された額を相続発生時に精算しなければならないため、制度選択後にどれだけの額が贈与されたかも重要な情報となる。そしてその情報は「生前にこれだけ贈与しました」とまとめて申告するのではなく、暦年課税同様、贈与した年ごとの申告が必要となっている。

 仮に昨年に相続時精算課税の選択届け出をしたからと安心してしまい、今年の贈与について翌年3月の期限までに申告をしないと、その分については相続時精算課税の対象とならず、かといって暦年贈与にも戻れず、何の非課税枠もない単なる贈与として扱われてしまう。例えば1年目に1000万円、2年目に1500万円を贈与して非課税枠を使い切るつもりだったケースで2年目の申告をうっかり忘れてしまうと、1500万円の全額に贈与税が課されることとなるのだ。

 贈与の課税制度の選択については、やむを得ない事情があった時には期限後の事後申告が認められることもあるが、一度制度を選んだ後の贈与については救済措置が一切存在しない。期限を1日でも過ぎた瞬間、制度の対象外となり、オーバーした日数に応じた無申告加算税、延滞税、そして高額の贈与税を負わされることになる。良かれと思って選んだ制度で損をしないよう、2年目以降の申告を絶対忘れないようにしたい。

2022年19号(2022/5/27)

<タックスニュース>沖縄の酒税特例  10年後に廃止で地元苦境

 沖縄が米国占領下から日本本土に復帰をしてから、5月15日で50年となった。占領時は米国の税率が適用されていたため、税率が大きく異なる酒税に関しては、1972年の復帰から今も、沖縄県内では消費者や製造者への影響を抑えるため、税率が軽減されている。だが、その措置もあと10年で廃止が決まっている。県内では特産の泡盛離れが進んでおり、製造業者は岐路に立たされている。

 沖縄県内で製造、出荷する酒類は、泡盛などのアルコール30度の蒸留酒は35%、オリオンビールなどの県産ビールは20%、それぞれ沖縄県外より酒税が軽減されている。この軽減措置の廃止が、2022年度の与党税制改正大綱に盛り込まれ、泡盛は段階的に引き下げて32年に、ビールは26年で廃止されることが決まった。

 税率軽減は本土復帰当初、5年の時限措置だったが、製造業の少ない沖縄において主要な産業である酒類製造業の振興と保護、県民の負担軽減として、税率を変えて繰り返し延長してきた背景がある。軽減措置の対象となる事業者数は、21年3月時点で約50社で、ほとんどが泡盛の製造業者だ。復帰後から19年までの軽減額は累計で約1370億円となる。

 泡盛はインディカ米と黒麹を原料とした蒸留酒で、歴史は琉球王朝時代に始まる。しかし、県内では泡盛の消費量は減少傾向にある。沖縄県酒造組合によると、出荷量は04年の2万7688キロリットルをピークに減少を続けており、21年はピーク時から半減の約1万2600キロリットルと過去最低を記録した。県外への出荷量はそのうち2割程度で、県や酒造組合は、販路拡大のため海外への輸出に向けたプロジェクトにも取り組んでいる。

 新型コロナウイルスの影響も響き、20年は泡盛製造業45社のうち30社が赤字だった。軽減措置の廃止で事業者は今後さらなる苦境に追い込まれる可能性が高く、生き残りをかけた模索が続く。

<タックスワンポイント>相続人以外への遺産分割は遺言が必須!  全員同意の上でも制度的に不可能

 ある資産家が、長年にわたり介護などを担当してくれた家政婦さんに恩義を感じ、財産のいくばくかを分け与えたいと考えたとする。家政婦さんの貢献については親族らも感謝していて、異論はない。そのようなケースで、実際に資産を分け与えないうちに資産家が急死してしまったらどうなるだろうか。

 故人の意思は関係者全員が確認していて、相続人も納得している。では相続人らによる遺産分割協議でその旨を盛り込めばいいかといえば、残念ながらそうはならない。遺産分割協議によって財産を取得できるのは、法定相続人のみと決まっているからだ。

 法定相続人とは、第一に夫や妻などの配偶者と子(子が亡くなっていれば孫)、それに該当する人がいなければ親と祖父母、それもいなければ兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっていればその子)――に限られる。これに当てはまらない人は、原則として遺産分割協議で財産を受け取ることはできない。つまり関係者全員が納得ずくでも、制度上、家政婦さんは遺産を1円も受け取れないということだ。

 ただし例外もあり、遺言があれば話は別だ。遺言のなかで相続人以外に財産を渡す旨をしっかり書いておけば、法定相続人以外でも相続財産を受け取れる。逆にいえば、遺言がなければ法定相続人以外に遺産を直接渡すことは絶対に不可能だ。

 それでは現実問題として、冒頭に挙げたようなケースで親族らが「それでも家政婦さんに遺産を受け取ってもらいたい」と考えた場合はどうするか。そのときは、まず法定相続人が遺産分割協議によって遺産を受け取った上で、相続人から家政婦に財産を贈与するという形を取る。言うまでもないが、この時には相続税と贈与税がダブルでかかってしまう。

 そうした事態を避けるためにも、お世話になった家政婦のように血縁のない第三者、あるいは子や配偶者がいるケースで孫に財産を渡したい場合などは、必ず遺言を作成するようにしたい。

2022年18号(2022/5/20)

<タックスニュース>兵庫県洲本市のふるさと納税  “違反返礼品”に駆け込み寄付

 ふるさと納税の返礼品基準に違反したとして4月26日に制度からの除外が決定した兵庫県洲本市で、税優遇を受けられる最終日である4月30日までの5日間で500件以上の駆け込み寄付があったことが分かった。還元率の高い返礼品が制度の人気につながっていることを皮肉にも証明したかたちだ。

 同市は、昨年10月から寄付に対する返礼品として、地元旅館で仕える温泉利用券を用意。その際に寄付額10万円に対して5万円分の返礼品として提供していた。同市は、旅館に支払う5万円のうち2万2500円を手数料として、総務省の定める「調達費」から除外していたが、このほど同省は手数料も合計した金額が調達費に当たると認定し、ふるさと納税制度からの同市の除外を決定した。返礼品基準に違反して除外を受けたのは高知県奈半利町、宮崎県都農町に続き3例目。次に制度に復帰できるのは2年後の2024年5月からとなる。

 問題となった温泉利用券に対しては1万2千件超、計約18億円の寄付が寄せられていた。同市は除外決定の処分を受け、寄付者からの問い合わせを受けるコールセンターを設置し、ゴールデンウィークの連休中も対応に当たった。寄付者からは「寄付した分の税優遇は受けられるか」、「過去の寄付に対する返礼品は送られてくるのか」などの質問が寄せられたという。

 また除外処分の対象は5月以降であるため、処分が報じられた4月26日からは数日の猶予があった。この間の寄付については税優遇が受けられるため、高返礼率を求めた“駆け込み寄付”が500件以上あったという。

 ふるさと納税を巡っては、自治体間の返礼品競争が過熱したことから、総務省が19年に、「寄付額の3割以下・地場産品のみ」とする基準を設けた。だがその後も、特産品のある自治体とそうでない自治体の間で格差が生まれるなど新たな問題も生じているのが現状だ。

<タックスワンポイント>生前贈与よくある7つの誤解  間違った贈与で重い税負担も

 生前贈与について正しく理解している人は意外に少ない。ここではよくある7つの「誤解」を紹介してみよう。

(1)毎年110万円以内なら税金はゼロ

 年間110万円までの贈与であれば、何回でもできると考えがちだが、税法上では10年にわたって毎年行う110万円の贈与は、1100万円を10年に分割して贈与したとみなされる。つまり1100万円をベースとした贈与税がかかることになる。これを防ぐには毎年贈与契約書を作って公正証書とする手がある。

(2)確定申告書が証拠になる

 実際に親子の間などでわざわざ契約書を交わす人は少ない。だがいざ当局に証明を求められた時、贈与の証拠は必要になる。連年贈与とみなされたときはなおさらだ。その際、確定申告書は贈与契約書の代わりにはならないので注意したい。確定申告書は贈与の定義である「あげます」「もらいます」の書類ではないためだ。

(3)贈与として預金名義を替えた

 いわゆる「名義預金」も問題になりやすい贈与形態だ。名前だけ替えても、実際の運用や管理が元のままでは贈与とは認められない。

(4)余命宣告後に急いで贈与した 

 医者から余命1年と宣告され、相続税を逃れるためにあわてて子どもに財産を贈与しても、それはなんの意味もない。死亡前3年間のドタバタ贈与は、相続財産に繰り戻されるからだ。非課税枠の110万円未満であったとしても相続財産に加算される。

(5)教育資金贈与特例で喜んでもらえる

 贈与額が数百万円程度の少額であれば、無税でも受け取った側の労力が大きくなる。税金がかかっても現金でもらって自由に使えるほうがラクと感じる現役世代は多い。

(6)相続時精算課税制度なら申告不要

 相続時精算課税制度は、いったん選択すると二度と暦年課税は選択できない。つまり、その後に孫へ1万円の小遣いをあげたときでも相続時精算課税制度の対象となり、贈与税の申告が必要になる。

(7)二次相続を考えて孫にも贈与する

 子どもが高齢であれば、孫への相続も近い将来必ず起きる。二重に発生する相続税を避けるために孫へも贈与する人が増えているが、現実には良いことばかりではない。おじいちゃんは財産を持っているからこそ大事にされるという悲しい現実がある。早々に丸裸になって距離をとられないよう慎重に。

2022年17号(2022/5/17)

<タックスニュース>iDeCoの75歳の受け取り開始が可能に  企業型との併用要件も緩和

 加入者が自身の希望する額の掛金を拠出して運用し、老後の資産を形成する個人型の年金制度「iDeCo」で、今年4月から様々な制度改正が行われている。年金を受け取る年齢はこれまで遅くても70歳だったのが75歳まで拡大されたほか、今年10月からは企業型確定拠出年金に加入している人が加入しやすくなる。

 改正点の1つ目は、老齢給付機の受給開始年齢が、これまでの60~70歳から、60~75歳に拡大されたことだ。公的年金の繰り下げ受給が75歳までとなることに合わせて見直された。受給開始を遅らせると、それだけ長く非課税で運用できるというメリットがある。

 2つ目は、これまで60歳未満とされていた加入年齢が、65歳未満まで5年引き上げられた。60歳以降も働く会社員や、60歳以降も国民年金の被保険者である自営業者などがiDeCoに加入できるようになる。

 3つ目は、すでに企業型確定拠出年金(企業型DC)に加入している会社員が、個人型確定拠出年金であるiDeCoに加入するための要件が緩和される。現在も同時加入は可能であるものの、勤め先が規約で併用を認めていることなどが求められ、ハードルが高かった。今年10月からは、加入者本人の意思だけでiDeCoに加入できるようになる。同時加入する場合、iDeCoの掛金と会社の掛金の合計は5万5千円だ。

 そのほか、終了した確定給付企業年金からiDeCoへの年金資産への移換ができるようになっている。また今後も、2024年からは拠出限度額が引き上げられたり、脱退一時金の支給要件が緩和されたりするなどの見直しが予定されている。

<タックスワンポイント>確定申告忘れの還付期限は翌年から5年間  それでもなるべく申告期限内に

 今年の確定申告は、新型コロナウイルスの影響やe-Taxのトラブルなどもあって4月15日まで個別延期が可能となった。だがそれでも様々な事情で、どうしても還付のための申告が期限内にできなかったということもあるだろう。そういう人のために、税法では「還付申告」という制度を設けている。

 還付申告をするのは、「しまっておいた医療費の領収書が後から出てきた」、「昨年末に組んだ住宅ローン申告が間に合わなかった」、「保険や高額療養費の金額が確定しなかった」、「退職したことで年末調整しないままだった」、「地震や風水害で自宅や家財に被害があったのに忘れていた」、「ふるさと納税についてワンストップ特例の申請も確定申告もやっていない」といった人だ。

 還付申告についてまず気を付けたいのが申告期限の計算だ。還付申告は、通常3月15日までとなっている確定申告期間とは関係なく、その年の翌年1月1日から5年間とされている。注意点として、あくまで翌年の正月から5年間であり、「3月15日の確定申告期限」ではないという点がある。仮に2021年分の医療費控除があったとすると、今年の確定申告の期限は原則22年3月15日であったため、還付申告の期限は27年3月15日までと思いがちだが、実際には26年12月31日に締め切られているため、もう還付請求はできないことになる。

 それと「翌年1月から5年間有効であれば、なにもわざわざ混み合う3月15日までに申告する必要はないのではないか」と思う人もいるだろうが、その考えはやめたほうがいいだろう。確定申告は6月から納付する住民税の計算に影響することから、時間の経過によって本来享受できるメリットを失うことにもなりかねない。住民税の計算のベースは、昨年末の年末調整や確定申告をした所得税の計算のベースの所得金額と同じだ。そのため、確定申告での所得額が低ければその分だけ住民税額は少なくて済むし、逆に多ければ住民税額は多くなってしまう。

 年末調整で所得額が多くなったが医療費控除を行えば少額になるというときに、還付申告を遅らせれば住民税は高額のままになってしまう。さらに自治体の公的サービスの多くは住民税の計算のベースである所得額を元に判断されるため、生活の様々な面にも影響を及ぼす可能性も否定できない。

2022年16号(2022/5/2)

<タックスニュース>カナダが外国人の住宅購入を禁止へ  国内需要には税優遇

 カナダ政府はこのほど、外国人がカナダ国内の住宅を購入することを2年間禁止する措置を発表した。投機による土地価格の上昇を抑えることが狙いだ。

 同国政府が発表した2022年度予算案では、住宅市場における競争の平準化を図るとして、外国人による住宅購入を2年間禁止した。さらに1年以内に住宅を売却する人に対しては高税率の譲渡所得税を課すことも決めた。これらの措置に、永住者や留学生などは含まれないという。

 同時に、住宅価格を落ち着かせて多くの若者を住宅市場に参入させるため、初めての住宅購入者に対する税額控除枠の拡大や、毎月の支払額を減額するインセンティブの実施、約500万円の非課税の住宅貯蓄口座の導入などを盛り込んだ。

 カナダでは外国資本による投機的な土地購入によって、住宅価格が過去最高のペースで上昇している。今年3月時点で平均住宅価格は前年比20%増の約1億円となっていて、若年層がマイホーム購入をためらう要因となっているという。さらに土地の価格上昇に伴い、家賃の相場も上がっている状況だ。

 その一方で、あくまで投機目的であるため実際には購入者が住んでいないことも多く、バンクーバーでは19年時点で非居住者による住宅の所有率が4.3%に達していた。

<タックスワンポイント>ウクライナ侵攻で進む円安  会社への影響は?

 不安定なウクライナ情勢の影響を受け、円安が進行している。4月19日の対ドルの円相場は一時期1ドル129円と、およそ20年ぶりの水準に達した。一部では5月の黄金週間明けにピークを打つとの見方もあるが、ウクライナ情勢がいまだ先が見えないなかでさらに円安が進行する可能性もある。

 円安は、国外との取引をする企業にどのような影響を及ぼすのか。為替相場の変動で生じる利益を「為替差益」、損失を「為替差損」と言うが、今回のように急激に円安が進んだ場合、輸出会社は為替差益によって得をし、輸入会社は為替差損で損をするということになる。例えば1ドル100円の時に海外から1千ドルの仕入れを行うとすると、円表示なので損益計算書に記載する仕入額は「10万円」だ。しかし代金を支払う時点で為替が1ドル150円になっていれば、現金として支出する額は10万円ではなく15万円になってしまう。差額の5万円は為替相場の変動による損失額ということだ。

 さらに円安の状況では、外貨建ての債権・債務の扱いにも気を払いたい。これらも税務申告の際には円表示に置き換えなくてはならないが、その換算方法は「発生時換算法」と「期末時換算法」のどちらかを選ぶことになる。複数の債権・債務について異なる換算方法を選択することはできないが、異なる外国通貨なら、異なる換算方法を選ぶことも可能だ。

 外貨建ての債権・債務は当然に円高や円安の影響を受けることとなるが、覚えておきたいのが、為替相場が著しく変動しているのであれば、すでに発生時換算法を選択していても、期末時換算法で簿価を付け替えることができるということだ。「著しい変動」の判断基準は、「(期末時の為替相場で換算した円貨の額-期末時の帳簿価額)/期末時の為替相場で換算した円貨の額」が15%以上になる状況を指す。

 注意点としては上記の計算時には、(1)期末時における実際の為替相場を採用し、平均相場を適用することはできない、(2)多数の外貨建債権・債務があるために個々の外貨建債権・債務ごとの割合の計算が困難なら、外貨の種類が同じ外貨建債権・債務ごとの合計額を基礎にして計算できる、(3)著しい変動に該当する外貨が2種類以上ある場合に、その一部についてだけ換算変更をすることはできない、(4)外貨建債権・債務の為替相場に著しい変動があったかどうかは、あくまでも帳簿価額と期末時の為替相場で換算した円貨の額との差で判断し、期中における最高騰時の為替相場と最下落時の為替相場との差や、期首時の為替相場と期末時の為替相場との差によって判断することはできない――ということも併せて覚えておきたい。

 円高・円安が外貨建の債権・債務へ与える影響は、おおむね債権が債務より多ければ、円高傾向なら期末時換算法、円安傾向なら発生時換算法が有利となる。反対に債務が債権より多ければ、円高傾向なら発生時換算法、円安傾向なら期末時換算法を選んだ方が良い。今回は円安なので、債権より債務が多い場合は、特例による期末時換算法への付替えを検討してもよいだろう。

2022年15号(2022/4/22)

<タックスニュース>教育資金贈与の非課税特例  制度終了まであと1年

 子や孫1人当たり1500万円を非課税で引き継げる「教育資金贈与の非課税特例」が来年3月に期限を迎えて制度が終了するまで1年を切った。2013年の導入以来、相続の生前対策として人気を集めてきた制度だ。期限はたびたび延長されてきたものの、22年度税制改正大綱では、家庭内の資産移転に課税しないことが格差の固定化に繋がっていると指摘されたことから「不断の見直しを行っていく」とこれまでにない強い口調で制度の終了や縮減が示唆された。利用を考えているのであれば急ぎたい。

 この特例は、30歳未満の子や孫の教育資金にあてるための贈与について、受け取る側1人当たり最大1500万円まで贈与税を非課税とする。信託銀行などに専用の「教育資金口座」を開設して贈与財産を管理する。受贈者は領収書類を信託銀行に提出し、教育目的で使ったことを証明すれば、贈与税の負担を回避できる。

 子や孫の数だけまとまった額の相続財産を減らす節税効果が見込めるため、13年の制度開始以来、富裕層を中心に利用件数を増やしてきた。信託協会の調べによると、スタートから半年弱で制度を利用した信託の契約数は4万を超え、21年9月までの累計利用件数は24万6691件、総額は1兆8306億円にも上っている。

 制度の期限は23年3月末だ。21年度に続き、税制改正を経て延長されると見る向きもある。しかし政府は22年度大綱で、教育や育児、結婚、出産、住宅取得などにかかる贈与税の非課税特例について「家族内における資産の移転に対して何らの税負担も求めない制度になっている」としたうえで「格差の固定化防止等の観点を踏まえ、不断の見直しを行っていく必要がある」と指摘した。いよいよ制度に本格的なメスが入るとうかがわせる内容となっている。

 制度の活用にあたっては、信託契約終了までに贈与財産に使い残しがあると贈与税が課税されてしまうなど、計画的に取り組まなければ思わぬ税負担が発生してしまうリスクがある。期限直前になって慌てずに済むよう、教育資金の贈与を考えているのであれば早期に検討を進めたい。

<タックスワンポイント>遺産相続で「限定承認」を選ぶとき  遺産の全容が分からないなら…

 ある人が亡くなれば、その人(被相続人)が生前に持っていた一切の財産は、家族などの相続人が受け継ぐことになる。受け継ぐ財産の多くは、不動産、現金、預貯金、株券、美術品、車、貴金属、思い出の品などだ。だが、なかにはこうしたプラスの財産だけではなく、借金などのマイナスの財産もあり、これも相続財産に含まれる。

 相続が開始すると、相続人は、(1)単純承認(プラス財産だけでなく借入金などのマイナス財産を含む一切の財産を無制限・無条件で承継することを承認すること)、(2)限定承認(相続人がプラス財産で利益を受ける範囲に限って、マイナス財産を相続する承認方法)、(3)放棄(被相続人の財産のすべてを放棄し、一切の財産を相続しない方法)――の3つのうちのどれかを選ばなければならない。

 (1)と(3)は比較的単純だが、(2)の限定承認を選ぶ際には、メリットとデメリットを押さえておきたい。

 限定承認の特徴は、プラスの財産の範囲内に限定してマイナスの財産を引き継ぐ形態であるため、資産の全体がマイナスであっても、プラスの相続財産以上の負債を背負うことはない点が挙げられる。プラス財産の範囲でマイナス財産を裁判所で清算してもらうが、債務を任意で弁済できなければ相続財産は換価処分されることになる。ただし、不動産相当額を用意できれば、不動産の換価処分は免れて手元に残すことが可能となる。

 一方デメリットとしては、限定承認を行うには相続人全員で取り組む必要があり、一人でも反対があれば裁判所は認めてくれない点がある。さらに、限定承認では小規模宅地の特例が使えず、また被相続人から資産が譲渡されたものとして譲渡所得税が発生することも覚えておきたい。

 判断はケースバイケースとなるだろうが、一般的に「マイナスはあるけど絶対に手放したくない資産がある」というときか、「プラスもマイナスも、いくらあるのは分からない」というときは、限定承認を選ぶことが多いようだ。

2022年14号(2022/4/15)

<タックスニュース>世界で進む国別納税額の公表義務化  国税庁「慎重に検討」

 どの国にどれだけ法人税を納めたかを示す「国別納税額」を自発的に公表する企業が世界的に増えてきている。企業による租税回避が大きな問題となるなかで、自社の価値を高めるための行動として評価されている。国によっては法制度化も進みつつあり、将来的に日本でも導入はあるのだろうか。

 3月29日の参院財政金融委員会で、共産党の大門実紀史議員が、企業の租税回避を防ぐ取り組みである「国別報告書」を取り上げた。報告書は、多国籍企業に対してグループ企業の各国での納税額を報告させ、各国当局間で情報交換するものだ。大門氏は、欧州などでは個別企業の納税額の公表を制度化する動きが進んでいるとした上で、「(国内でも)開示の法制化を検討すべきではないか」と質問した。それに対して鈴木俊一財務相は、「国別報告制度は当局の守秘義務が前提で、公表を競争上の不利益と考える企業もある」と答え、現状では消極的な姿勢を示した。重ねて大門氏が「個別企業の名前を出さずに一定規模以上を集計して公表できるのではないか」と質問すると、国税庁の重藤哲郎次長が「個社の名前を出さないことを前提に、統計的にどのようなニーズがあるか、諸外国はどうしているかなど、慎重に検討する必要がある」と答弁した。

 欧州ではここ10年ほど、多国籍企業による税逃れの実態が明らかになるに伴い、企業の納税状況への消費者や投資家の目が厳しくなっている。それを受けて企業が自主的に納税額を公開する動きが生まれ、現在では多くの企業がグループが活動する各国での詳しい納税情報を明かしている。

 日本でもESG(環境・社会・企業統治)活動の一環として納税情報を明かす企業は増えつつあり、すでに開示している企業としては花王、セブン&アイホールディングス、りそなホールディングスなどがある。またアシックス、クボタ、三菱商事などが開示に向けた検討を進めているという。

 租税回避防止への取り組みとして、国別納税額の公表を制度化する動きも進む。EU(欧州連合)は昨年末、EU内で事業を営む大企業に納税額の公表を義務付けるルール導入を決めた。企業の納税状況の透明化を求める声は世界的に根強く、今後もこうした動きは加速していくとみられる。国内で導入に向けた検討が始まるのは時間の問題かもしれない。

<タックスワンポイント>借金取りに遺産を取られないマル秘テク  「0円相続」ではなく相続放棄を

 多額の借金のある人に、相続で遺産がころがりこむ当てがあるとする。もちろん遺産で借金を返済すれば丸く収まるのだが、「借金取りにみすみす取られるのも面白くない」と考えた場合、取れる手は2つある。

 1つ目は、相続放棄をしてしまうことだ。

 借金などの債務を持つ人が、債権者の取り分を減らすことを目的にわざと財産を減らすことを「詐害行為」という。詐害行為があったときには債権者は取り消しを求めることができるのだが、相続放棄はこの詐害行為には当たらないと過去の判例で示されている。つまり債権者である借金取りは、相続放棄をとがめることができない。相続放棄をしてしまえば、最初から財産を取得しなかったことになるので、そもそも「わざと財産を減らした」という前提が成立しないというのが理由だ。

 そして2つ目の方法が、親に「財産をびた一文渡さない」と遺言に書いてもらうことだ。

 税法では、遺言によって1円も財産を受け取れなかったとしても、子などの近い相続人には「遺留分」と呼ばれる最低限の権利が認められている。遺産を実質的に借金の担保として想定していた借金取りとしては、「債権者として遺留分請求を求める」と主張するだろうが、これについても裁判所は「遺留分の請求は一身専属の権利であり、債権者による介入は認められない」と判示している。

 一方でやってはいけないのが、遺産分割協議を行った上で0円も受け取らないというやり方だ。この場合、相続財産は法律上、いったん相続人全員の共有状態となり、その後、協議によって最終的な帰属先が決まることになる。たとえ0円相続だとしても、共有とはいえ一度は手にした財産を手放すことは「詐害行為」に当たる。借金取りからの取消請求に対抗できないというわけだ。

 もちろん相続放棄や遺言を使って借金取りから遺産を守れたとしても、借金自体がなくなるわけではない。遺産をすべて兄弟などに譲った上で本人は自己破産して、それを「逃げるが勝ち」と思うかは個人の考え方次第だが、そもそも借金苦におちいらないようにするのが最善であることはいうまでもない。

2022年13号(2022/4/8)

<タックスニュース>成年年齢が18歳に引き下げ  生前贈与の相続対策に影響

 4月1日に、成年年齢がこれまでの20歳から18歳へ引き下げられた。成年年齢の見直しは約140年ぶりで、これまで成人であることを条件としてきた様々な法律行為に影響を及ぼす大改正となる。相続対策を考える上でも今回の法改正は無視できず、成年年齢の見直しによる影響を把握しておきたい。

 18歳、19歳の人は今後、親の同意を得ずに様々な契約をすることができるようになる。携帯電話を購入する、アパートを借りる、クレジットカードを作成する、ローンを組むといったことが可能だ。また成人は親権に服さなくてよいため、自分の住む場所を自分の意思で決めたり、進学や就職などの進路決定についても自分の意思で決めたりすることができるようになる。そのほか10年有効のパスポートの取得や、公認会計士や司法書士などの国家資格に基づく職業に就くこと、性別の変更審判を受けることなども可能となる。

 一方、今年4月以降も変わらない点もあり、酒やたばこに関する年齢制限については20歳のまま維持される。また競馬や競輪、オートレースやモーターボート競走といった公営ギャンブルの年齢制限についても20歳のままだ。

 成年年齢の引き下げとともに、女性の婚姻開始年齢の引き上げも行われた。これまでは婚姻開始年齢は男18歳、女16歳と性別で差が付けられていたが、男女ともに婚姻開始年齢が18歳で統一された。なお4月1日の時点ですでに16歳以上の女性は引き続き18歳未満でも結婚することができる。

 そして成年年齢の引き下げによって、税にも影響ある。例えば相続税の「未成年者控除」では、財産の取得時に相続人が未成年であれば税額を控除でき、これまでは満20歳になるまでの年数1年につき10万円が差し引けた。成年年齢が2歳引き下げられると、これまでより控除できる額が減る。

 また贈与税では、父母や祖父母などの直系尊属から20歳以上の子や孫が贈与を受けたときには有利な特例税率を適用するルールがある。これも成年年齢引き下げで18歳に引き下げられるため、今までより2年早く生前贈与を使った相続対策が可能となる。同様に、親や祖父母からの贈与について2500万円までを贈与税から控除できる「相続時精算課税」も、これまでより2年早く利用することができる。子や孫の結婚・出産・育児資金の一括贈与を非課税にする特例も、受贈者の年齢要件が20歳以上から18歳以上に引き下げられる。

<タックスワンポイント>高額な介護費用の負担を還付申告で減らす  知らなきゃ損する申告制度

 現在、65歳以上の高齢者は約3600万人で、全人口の3割弱を占める。そしてそのうち680万人、実に高齢者の5人に1人が、公的な介護保険の要介護(要支援)認定を受けている。

 高齢者の介護には当然コストがかかる。例えば近年増加している「認知症」による社会全体の負担(社会的コスト)は、厚生労働省の推計によると年間約14兆円に上り、家族の介護負担がその4割を占めているというデータもある。介護をする家庭には大きな負担を強いる社会となっているが、その負担を少しでも軽減させるため、介護保険を利用して支払った負担額が一定額を超えると、超過額が払い戻される「高額介護サービス費」という制度を知っておきたい。

 制度を利用できるラインとなる自己負担上限額は1人単位ではなく世帯単位で計算され、世帯に複数の要介護者がいる場合は合算することが可能だ。上限額は収入に応じて区分され、自治体によって差はあるが、(1)世帯の誰かが市区町村民税を課税されている世帯は月額4万4400円、(2)世帯の全員が市区町村民税が非課税であれば2万4600円、(3)生活保護を受給していれば1万5000円――を超える介護費が還付される。ちなみに以前は、現役世代並みの収入のある人がいなければ3万7200円が負担の上限額だったが、2017年8月から住民税を納めていれば4万4400円に引き上げられてしまった。

 なお介護費用といっても、住宅改修費や福祉用具購入費、介護保険施設での食費や居住費などは、高額介護サービス費支給制度の対象外となる。そして、どれだけ高い介護費用を支払おうとも、支払った者が自ら申請しなければ支給は受けられない。つまり知っていれば得をする、知らない者が損をする制度だということだ。

 高齢者が今後も増え、介護にかかる社会的コストが膨れ上がっていけば、ますます高齢者に冷たい世の中になっていくかもしれない。そうしたなかでも、今ある制度はフルに活用してたくましく生き延びたい。

2022年12号(2022/3/31)

<タックスニュース>全国銀行協会が発表  私的整理の新ガイドライン

 全国銀行協会は、経営が困難になった中小企業の債務を協議によって整理する私的整理の新たなガイドライン(指針)を発表した。収益性や将来性を見込める事業を手がけているにも関わらず、過剰な債務のために経営が行き詰まる場合に、債務返済を延長したり、一部減免に応じたりして立て直しを後押しする。4月15日から適用する。

 コロナ禍が長期化し、事業環境が好転しない状況下で債務負担が重い事業者が増加することを背景に、国が昨年の成長戦略実行計画で策定することを盛り込んでいた。全銀協の有識者による研究会が具体的な指針を検討していた。01年に大企業向けに作成していた指針の中小企業版にあたる。

 指針では、平時と、有事にわけた対応を記載。平時には事業者が財務基盤強化や経営の透明性を確保することとし、金融機関には事業者の経営課題を把握・分析し、予兆管理することなどを記載した。

 一方の有事は、過剰債務などによる財務内容の悪化や資金繰りの悪化などが生じ、経営に支障が生じる場合とし、有事に早期の経営改善を目指すこととした。第三者の弁護士や公認会計士の専門家が中立な立場から再生計画策定などを支援する。支援開始の段階で詳細な事業再生計画などは求めないこととした。

 大企業向けの指針では3年としていた債務超過の解消年数を5年と長く設定した。また、大企業向けの指針では、金融機関が支援に応じる代わりに経営者の退陣を求めてきた。しかし中小の事業者では、感染症の流行などにも配慮し、経営者の退陣を必須とはしないこととした。

<タックスワンポイント>一般社団法人の相続対策はもう使えない?  信頼できる他人を見つけられれば…

 2008年の制度改革で誕生した一般社団法人(一社)は、資本金が不要で登記のみで設立可能という手軽さが売りとなっている。一社は株式会社と異なり、持分がない。そのため剰余金の分配や解散時の残余財産の分配は基本的には行われず、また株式会社が持分割合に基づいて法人を所有するのに対し、一社は誰も法人を所有していない。

 この「誰のものでもない」という点を生かしたのが、一社を利用した相続税対策だ。株式会社であれば、株主や出資者に相続が生じれば、持分に応じて会社の資産や負債が相続税の対象になる。しかし一社には持分がないので、どれだけ出資していても、法人の保有する資産や負債は出資者の所有物ではなく、相続税の対象にならない。中小オーナー企業の社長一族の相続では自社株式が主たる財産となるため、これをオーナー個人から一社に移すことによって相続税を大きく節税できるというわけだ。ただしこの節税策は、2018年度税制改正で規制が行われている。同改正では、相続開始直前時点で、総理事数に占める同族役員数が2分の1を超えている法人、相続開始前5年のうち3年以上で、総理事数に占める同族役員数が2分の1を超えている法人については、法人に譲渡された財産にも相続税や贈与税を課すとされた。以前も法人が実質的に同族に支配されていると認められた時には相続税が課されるといった規定はあったが、判断基準があいまいで実際には野放しとなっていたため、要件が明確化されることとなった。

 同族を理事の半数以下に抑えれば節税策は変わらず使えるが、その場合は新たなリスクが発生する。株式会社とは異なり一社には持分がないため、持分に応じた議決権というものも存在しない。そうなると法人としての意思決定は単純に、理事の頭数による多数決となる。つまり同族役員が半数以下に制限されるということは、外部の人間に意思決定権を委ねることと同義なのだ。目先の税負担を抑えるために一社を設立したが、将来的に法人ごと財産を奪われる展開もあり得なくはない。

 さらに「同族役員」は、決して血縁上の親族だけにとどまらず、被相続人と特殊な関係にある者として「被相続人が会社役員となっている会社の従業員等」も含まれる。ごくごく親族に近いような身内を理事に据えて要件をクリアするという抜け道は使えないわけだ。親しい知人や友人に意を含めて理事になってもらうことはできるが、将来的に心変わりしないという保証はない。最後はどこまで他人を信用できるかという覚悟の問題になるのかもしれない。

2022年11号(2022/3/17)

<タックスニュース>中小企業活性化パッケージ  無利子・無担保融資を延長

 政府はこのほど、年度末をまたいだ中小企業の資金繰りや事業継続を支援する「中小企業活性化パッケージ」をまとめた。新型コロナ禍に対応した実質無利子・無担保融資の6月末までの延長などを盛り込んでいる。

 日本政策金融公庫など政府系金融機関の「実質無利子・無担保融資」と、日本政策投資銀行と商工中金による「危機対応融資」は、3月末までとされていた期限を6月末までに延長する。返済負担を軽減するため、運転資金についての融資期間も15年から20年に延ばす。借入金を金融機関が自己資本とみなすことができ、企業が融資を受けやすくなる、日本政策金融公庫の「資本性劣後ローン」(最大20年元本据え置き、上限額10億円)は2023年3月末まで継続する。納税や社会保険料の支払い猶予制度の運用も継続する。

 経営安定に支障が生じている中小企業を一般保証(最大2.8億円、80%保証)に上乗せした別枠保証(最大2.8億円、100%保証)の対象とする「セーフティーネット保証4号」の期限は、3月1日から6月1日に延長した。

 企業の収益力改善や事業再生、廃業後の経営者の再チャレンジを一元的に支援する「中小企業活性化協議会」を4月1日から全国47都道府県に設置する。協議会には地銀や信金など地域の金融機関から30~40代の行員を派遣し、地域の支援専門家の育成も行うことで強固な支援体制を構築するとしている。

<タックスワンポイント>2つの会社の退職時期を空けるべき理由  税の優遇がゴッソリ減ってしまう!?

 本業の会社以外に、不動産投資法人や資産管理会社など、複数の法人の要職を兼務している経営者は多い。いつかはそれらの役職を辞して現役生活にピリオドを打つときがくるかもしれないが、そのタイミングは慎重に検討したい。

 退職の際に受け取った退職金は、所得税法上の「退職所得」として、「(退職金の金額-退職所得控除額)÷2」の式で計算される。計算式のうちの「退職所得控除額」は勤続年数によって変わり、20年以下の場合は「40万円×勤続年数(80万円に満たない場合には80万円)」、20年超なら「800万円+ 70 万円×(勤続年数-20年)」となる。1年未満の端数が生じたときは切り上げだ。

 注意したいのは、一つの会社から退職金を受け取った後、時間を置かずに別の会社も退職すると、退職所得控除の勤続年数の部分が調整され、退職所得控除が最大限使えなくなる可能性があるという点だ。その一定期間とは、「退職した年とその前の4年間」となる。

 例えば本業であるA社に1996年4月1日に入社したとする。さらに本業の傍らで不動産投資を始め、収益不動産を保有するB社を2008年12月1日に設立した。その後、本業をリタイアすることを決め、A社を16年3月31日に退職し、2千万円の退職金を受け取った。そこから4年ほどでB社もリタイアすることになり、20年11月30日で退社、こちらでも退職金を1千万円もらったとしよう。

 まずA社を退職した時の退職所得控除額は、勤続年数20年以下なので、「40万円×20年=800万円」となり、A社から得た退職所得は「{2000万円-(40万円×20年)}÷2=600万円」となる。

 次にB社も勤続年数20年以下なので、単純に考えるなら退職所得控除額は「40万円×12年=480万円」となりそうだ。しかし、このケースでは4年以内にA社からも退職金を受け取り、両社の勤続期間には重複している期間(7年4カ月)がある。こうした時、B社の退職所得控除額は、その重複期間に相当する控除額を減額しなければならないのだ。減額される退職所得控除額は「40万円×7年(1年未満切り捨て)=280万円」となり、本来であれば480万円を控除できるはずが、実際に控除できるのは200万円となってしまった。退職所得も本来なら260万円で済むはずが、重複期間があったために400万円に跳ね上がることとなった。

 このように、間を空けない退職金の受け取りは控除額が減額されてしまう。複数の会社から退職金を受け取るのであれば、5年以上期間を空けて退職することが望ましいと覚えておこう。

2022年10号(2022/3/11)

<タックスニュース>楽天拠点のあるウクライナへ  三木谷氏が10億円寄付

 ロシアが侵攻したウクライナに事業拠点がある楽天グループの三木谷浩史社長は、同国を支援するため10億円を寄付したことを明らかにした。三木谷氏個人による寄付で、すでに送金を完了させたという。

 楽天グループは、無料通話アプリを展開する傘下の企業の事業拠点がウクライナ南部のオデッサにあり、現地のエンジニアなどが業務にあたっている。三木谷社長は2月27日、自身のツイッターで「僕たちにできることは本当に限られていますが、家族と相談し10億円をウクライナに寄付することにしました」と発信した。

 また、ウクライナのゼレンスキー大統領に宛てた文書も公開し「いわれのない攻撃に対して勇敢に抵抗する姿を見て、日本から何ができるかと考えた」としたうえで、暴力の犠牲になっているウクライナの人々を救う人道的な活動のために使ってほしいと求めた。

 個人が支出した認定NPO法人や公益社団法人などに対する寄付金は、寄附金控除(所得控除)と寄附金特別控除(税額控除)に分かれる。

 寄附金控除は、寄付金の合計額から2千円を引いた金額をその年の総所得金額から控除される。控除の対象となる寄付金の合計額は、総所得金額の40%が上限となる。寄附金特別控除は、寄付金の合計額から2千円を引いた金額の40%相当額を、その年の所得税額から控除される。控除対象となる寄付金合計額は、総所得金額の40%が上限だ。また、特別控除額はその年の所得税額の25%相当額が限度となっている。

<タックスワンポイント>帳簿のデータ保存  「優良帳簿」でもらえる税のごほうび

 今年1月に施行された改正電子帳簿保存法では、帳簿書類を電子データで保管するための要件が緩和され、一方で電子書類を紙に印刷して保管することを認めないなどの見直しが盛り込まれた。このうち後者については、中小事業者での対応が困難という理由で、2年間の猶予期間が設けられたのは記憶に新しいところだ。

 だがなかには、今年1月に間に合うように完璧に準備したのに肩すかしをくらった気持ちの事業者もいるだろう。そんな社長さんは、ぜひ「優良な電子帳簿」の特例を知っておきたい。

 今回の法改正では、これまで求められてきた「記録事項の訂正・履歴データを参照できること」、「取引の詳細な内容を検索できること」などの要件が求められなくなり、電子保存がしやすくなった。しかし改正前の厳しい要件を満たした帳簿は、今後は「優良な電子帳簿」として、その記載内容について申告漏れがあったときには過少申告加算税が5%軽減されるのだ。

 注意したいのは、加算税の軽減措置を受けるためには、優良な帳簿の条件を満たすだけでなく、特例の適用を受けるという届出書を税務署に提出しなければならない点だ。条件を満たしているなら忘れずに提出しておきたい。

2022年9号(2022/3/3)

<タックスニュース>税の国民負担率  過去最高の48%見通し

 国民の所得に占める税金や社会保険料などの負担の割合を示す「国民負担率」が、2021年度は48%に達し、過去最大となる見込みであることが分かった。財務省が2月17日に発表した。所得が増えたものの、税金の増加がそれを上回ったという。一方22年度は46.5%で、7年ぶりに低下すると試算した。

 「国民負担率」は、個人や企業の所得などをあわせた国民所得に占める税金や社会保険料の負担の割合で、公的負担の重さを国際的に比較する指標だ。

 財務省の発表によれば、21年度の国民負担率は、前年度から0.1ポイント上がって48.0%となり、これまでで最大となった。企業業績が回復したことで所得が増えたものの、法人税などがそれを上回る伸びとなったことから負担率がわずかに上昇した。

 また国の財政赤字を加えた「潜在的な国民負担率」は、3回の補正予算を組んだ前の年度と比べて今年度は財政赤字の額が少なかったため2.1ポイント減少し、60.7%となる見込みだという。

 財務省は同時に、22年度の負担率も試算した。それによれば22年度は国民の所得の改善がさらに見込まれるとして、国民負担率は1.5ポイント下がって46.5%となり、7年ぶりに低下する見通しだ。潜在的な国民負担率も3.8ポイント下がって56.9%となる予想だという。

 国民負担率は、高齢化による社会保障費の増加の影響などで1970年度以降増加傾向が続いている。ただ諸外国をみるとフランスが67.1%。ドイツが54.9%など、日本は先進国の中では負担率が相対的に低いのも事実だ。

<タックスワンポイント>公金受取口座とマイナンバー紐付けとの違い  番号紐付けにメリットはあるか?

 現在行われている2021年分の確定申告では、新型コロナウイルスの給付金などを迅速に受け取るための「公金受取口座」の先行登録が始まっている。同制度は、マイナンバーと紐付けされた任意の口座を前もって国に教えておくことで給付業務をスピーディーにするものだが、まぎらわしいのが、すでに数年前から存在する「預貯金口座付番制度」との違いだ。

 「預貯金口座付番制度」とは、預金者がマイナンバーを金融機関に届け出る制度のこと。18年1月から、投資口座の開設、外国への送金時に個人番号を提出することが全面義務化されたことに加えて、それ以外の普通口座についても任意の番号提出が始まったが、現在のところ紐付けは低調にとどまっている。

 なぜ預金口座にマイナンバーを紐付けようとする人が少ないかというと、それは資産情報を当局に完全捕捉されることへの懸念に他ならない。今後、預金保険機構を仲立ちにして相続時などに一括して口座情報を取得できるようになるなど預金者にとってのメリットがないでもないが、やはり口座へのマイナンバー紐付けが有効活用されるのは、主に税や社会保障などに関して行政側が資産情報を調査することが主だからだ。昨秋に発足したデジタル庁では預金口座へのマイナンバー紐付けの罰則付き義務化も検討されたが、口座情報を把握されることに対する国民の反発や不安に配慮し、当面は「個人の希望に沿ってやる。国民に対して義務化はしません」(当時の平井卓也デジタル改革担当相)という形に落ち着いた。

 それに対し、今回の「公金受取口座」は、あくまで給付金や児童手当、年金などの受け取りのためだけに利用されるものとされている。マイナンバーは本人確認のために使われるだけという立て付けだ。

 なお現在は、マイナンバーカードの取得促進のため、カード取得などをした人に最大2万円分のポイントを還元する「マイナポイント」事業が実施されているが、このうち7500円は、今回の公金受取口座の登録をした人のみが対象だ。内訳としては、マイナンバーカードの取得で5千円、健康保険証としての利用申込で7500円、公金受取口座への登録で7500円で、トータル2万円のポイント還元が受けられる。

2022年8号(2022/2/25)

<タックスニュース>消費税不正還付の対応強化へ  「審査長期化に理解と協力を」

 国税庁はこのほど、「消費税還付申告に関する当局の対応について」とする文書を公表し、消費税の申告から還付まで時間がかかるケースがあることに対して理解と協力を求めた。背景には、後を絶たない悪質な不正還付への対応を強化していく方針があるとみられる。当局は全国の国税局に消費税還付専門のポストを設けて、審査のスピード維持と不正防止を両立させたい狙いだ。

 消費税は、仕入れ時に支払った消費税と、売上時に受け取った消費税を通算し、年間を通して売上時に受け取った額のほうが多ければ差額分を納税し、逆に仕入れ時に支払った額のほうが多ければ還付を受ける仕組みだ。その不正還付とはすなわち、仕入れ時に支払った消費税額を実際より多く申告することで、高額な還付金を受け取る行為を意味する。 

 たびたびの増税で消費税率が10%となり、不正還付による“旨味”は増しつつある。それに伴い不正還付も後を絶たない状況だ。今年1月には、東京都のイベント企画会社が展示用の血統書付きの猫を350匹購入したと偽って30億円を架空計上し、消費税2億円弱を不正に還付されていたことが分かった。

 当局は不正還付を「国庫金の詐取」だとして厳しく調査をしているが、年間20万件にも及ぶ還付申告のすべてを精査するのは難しく、審査に時間をかけざるを得ない。こうした状況のもと国税庁がこのほど公表した文書では、「取引等の相手方と連絡が取れないことなどにより取引の実態の確認が困難である場合や、取引に係る金銭授受の事実確認が困難である場合、輸出等に係る証拠書類が適切に保管されていない場合などにおいては、それらの確認に時間を要し、還付を保留する期間が長期にわたる」と釈明。「還付税額が過大と認められる事由がないことが判明した場合には、遅滞なく還付を行うこととしています」として、納税者に理解と協力を求めた。

 当局にとっても、還付が遅れると納税者に対して還付加算金を支払わなければならず、審査の効率化とスピードアップは喫緊の課題だ。そこで最新の22年度には、消費税の不正還付に当たる専担ポストとして、「消費税専門官(仮称)」を全国の各国税局、13税務署に置くことをすでに決定している。今後さらに消費税の還付申告に対する調査は厳しさを増しそうだ。

<タックスワンポイント>ハードル高い期限後申告の「正当な理由」  郵便収集後の投函は加算税免れず

 今年も確定申告シーズンがやってきた。今年の確定申告期限は3月15日だが、「新型コロナの影響により延長希望」と申告書に書き添えることにより、4月15日までの延長が認められている。

 申告書の提出が期限を過ぎてしまうと納税額が割増しになるが、期限後申告が“ど忘れ”や故意などによるものではなく「正当な理由」があるものと税務署に認められれば、期限後申告でも加算税は課税されない。だが、この「正当な理由」の有無については納税者と税務署で見解の相違が生じることも多い。

 実際に国税不服審判所で争いになった事例では、法人税の申告書を法定期限内に郵便ポストに入れたものの、郵便の収集時間後だったために消印の日付が期限後となったものがある。裁決書によると、上司から申告書を提出するように指示を受けた社員が、仕事の忙しさの中で提出を失念していたという。会社は加算税の課税処分の除外要件に該当すると主張したが、審判所はこの訴えに正当な理由はないと判断し、加算税の課税処分は妥当とした。

 税務署が正当な理由ありと判断する境界線は必ずしも明確ではなく、いったん指摘を受けたらその判断を覆すのは難しい。加算税を免れるために期限内に申告するのはもちろんのこと、期限内に提出できないことにやむを得ない理由があれば、後から正当性を主張するよりは、事前に税務署に「申告期限の延長申請」を提出して期限を先延ばしするようにしたい。

 なお、期限後提出による税額の割り増し分は無申告加算税と延滞税で、無申告加算税の税率は本来納めるべき税金に対し、50万円までは15%、50万円超は20%、延滞税は納期限から2カ月は2.4%、それ以降は8.7%となっている(ともに2022年分)。また、2年連続で法人税の申告書を期限内に提出しないと、青色申告が取り消され、青色申告者への税優遇が受けられなくなる。

2022年7号(2022/2/18)

<タックスニュース>「ギャラ飲み女子」に国税の目  月収1千万円の「人気嬢」も

 一定の料金を支払って呼んだ女性と飲食をともにする「ギャラ飲み」と呼ばれるマッチングサービスを巡り、キャストとして働く女性らに無申告の疑いが相次いでいることが分かった。近年増加するこうしたシェアリングエコノミーと呼ばれるビジネス形態では一定の収入があるにもかかわらず申告しないケースも多く、国税当局は目を光らせている。

 ギャラ飲みは、飲食宅配サービスのウーバーイーツや民泊、フリマアプリなどに代表される「シェアリングエコノミー」の一つだ。女性がアプリに「キャスト」として登録し、利用者はアプリを通じてキャストを集合場所に呼び出し、一緒に飲食を行う。報酬は運営会社を通じてキャストに支払われ、人気の女性は月収1千万円を超えることもあるという。

 こうしたマッチングアプリは複数あり、例えばマッチング数1位をうたうアプリでは、女性の人気により「スタンダード」「VIP」「ロイヤルVIP」などとランク付けされ、30分3000円~1万2500円の料金で女性を呼べるシステムだ。ダウンロード数は60万を超え、ホームページでは領収証を発行できることもPRしていることから、ビジネスで利用するケースもあるとみられる。

 今回無申告の疑いが浮上したきっかけは、マッチングアプリの運営会社に東京国税局の税務調査が入ったことだった。2月上旬にはインターネット上のSNSに、「1、2カ月前にギャラ飲みアプリの〇〇に国税が入ったんですが、その際に〇〇は女性の名簿を渡してしまったみたいです。(中略)ほとんどの女性が無申告で1円も税金払っていない状態なので、相当な金額の課税がきてまして、港区女子が震えてます。やばい子だと1000万円課税がくるような子もいるみたいです」(投稿では企業名が実名)との投稿があり、話題となっていた。すでに当局は、年間数百万円以上の報酬を得ながらも申告していないキャストが数十人いることを確認していて、さらに調査を進めていく方針だ。

 キャストは運営会社との雇用関係はなく、税金が源泉徴収されない。そのため収入から経費などを差し引いた所得が一定額を超えると所得税を納める必要があるほか、年収が1千万円を超えるなどの基準を満たすと消費税の納税義務も生じる。だがキャストの中心である20~30代の女性らは納税意識が低く、申告していないケースも多いとみられている。運営会社もこうした実態を把握し、キャストに対して税務申告に関するセミナーを開くなどの対応を講じているが効果は薄いようだ。

 飲食宅配サービスのウーバーイーツや民泊サービス、フリマアプリなどの「シェアリングエコノミー」は年々市場規模を拡大しているが、一定以上の収入を得ながらも無申告であるケースが後を絶たない。国税庁は2020事務年度には1071件の税務調査を実施し、1件当たり1872万円の申告漏れを指摘している。

<タックスワンポイント>育児サポートのくるみんマークで助成金も  今年4月から「3段階方式」に

 厚生労働省では、労働環境の改善などに積極的に取り組む企業に対して、様々な認定マークを付与している。取得した認定マークは自社のホームページや名刺・自社商品などに利用でき、認定取得企業であることを対外的にアピールできる。もちろん取り組み自体が従業員の定着につながり、認定取得企業を対象とした補助金もあるなどメリットは多い。

 数ある認定マークのなかでも有名なのが「くるみん」だろう。くるみんは従業員の子育てへのサポートを充実させている企業に与えられるマークで、育児休業の取得率、子育てを支援する勤務制度の利用率など一定の要件を達成すると取得できる。

 くるみん認定を受けた中小企業は「くるみん助成金」を受け取ることも可能だ。育児休業の取得を促進する取り組み、子育てを支援する取り組み、業務負担の軽減や所定外労働の削減を図る取り組み、仕事と家庭の両立が図られるために必要な取り組みなどにかかった費用について、最大50万円を受け取れる。具体的には代替要員の給与、研修費、リモートワークのためのパソコン購入費用などが該当するだろう。

 ちなみにくるみんマークは、これまでは通常の「くるみん」と、さらに高い水準の取り組みを行った企業が認定される「プラチナくるみん」の2段階だったが、今年4月からは「トライくるみん」を加えた3段階方式に改組されることが決まっている。これまでの「くるみん」の認定基準がそのまま「トライくるみん」に移行し、「くるみん」と「プラチナくるみん」については認定基準が引き上げられるとのことだ。基準引き上げの背景には、日本の男性の育児休業率がいまだに1割程度にとどまるなど低迷していることを踏まえ、男性の育休取得を促す改正育児・介護休業法が今年施行されることなどがある。改組に際しては、マークも新たなものに生まれ変わるという。

 なお今回の改組には経過期間が設けられ、2024年3月末までは、「くるみん」「プラチナくるみん」ともに現行の基準でも認定基準を満たしたとみなされる。ただし付与されるマークは現行のもので、厳しい新基準を満たした企業とは見た目で区別できるようになっている。

2022年6号(2022/2/10)

<タックスニュース>国外財産調書申告財産は4.1兆円  不提出ペナルティーは89億円

 2020年12月31日時点で、富裕層が海外に持つ資産の総額は約4.1兆円だった。国税庁がまとめた「国外財産調書」のデータで明らかになった。同調書の提出件数は年々増加しているものの、財産を持っているにもかかわらず調書を出していない人も相当数いるとみられ、当局は文書照会などで適正な提出を確保していくとしている。

 国外財産調書は、富裕層の持つ海外資産の把握と適正な課税を目的として、合計5千万円超の資産を海外に有している人に提出が義務付けられている。国税庁が2月1日に発表した2020年分の提出状況によると、調書の提出件数は1万1331件で、総財産額は4兆1465億円だった。件数では前年より679件増加し、価額では1089億円減少している。同制度は13年にスタートし、15年1月から正当な理由のない未提出、虚偽記載に対する罰則規定を導入。提出件数は制度開始以来、微増傾向を続けている。

 国税局の管轄ごとに見ると、東京が7216件で全体の63.7%を占めている。以下、大阪1663件、名古屋815件と続いた。また財産額では、東京3兆161億円で全体の72.7%を占めた。富裕層の持つ資産の約4分の3が東京に集中している現状が浮き彫りとなっている。大阪は5737億円、名古屋は1906億円だった。

 財産の構成比では有価証券が全体の51.2%と過半数を占め、以下、預貯金、建物、貸付金、土地の順で割合が高かった。

 同調書は、正当な理由なく期限内に提出がなかったり虚偽の記載があったりしたときには1年以下の懲役か50万円以下の罰金が課され、未提出であったり記載のない財産について申告漏れがあったりしたときには加算税に5% のペナルティーが上乗せされることとなっている。同時に、記載のあった財産に申告漏れがあったときには加算税を5%軽減するインセンティブも設けられている。国税庁のまとめたデータによれば、国外財産調書を提出しなかったことで加算税が加重されたケースは20事務年度に307件、金額にして88億792万円あったという。逆に調書を提出していたことで軽減されたケースも126件あり、43億3960万円の加算税を免れている。


<タックスワンポイント>自社株引き継ぎの好機はいつ?  業績悪化時は有利、好況なら一計を

 相続財産を考える際、同族会社のオーナーであれば株式の評価額がかなりの部分を占めることになる。そのため株式の評価がどのように決定され、どういったときに増減するのかは重要な関心事となるだろう。

 未上場の株式のことを相続税では「取引相場のない株式」というが、こうした株式を評価する際には基本的に純資産価額方式と類似業種比準方式を採用する。純資産価額方式とは、会社の純資産の価額をベースに評価する方法で、仮に会社を清算したとして手元に残るお金の金額で評価する。つまり、一般的に歴史のある内部留保が多い会社の評価が高くなる傾向にある。

 一方の類似業種比準方式とは、その会社と類似の業種の上場会社の平均株価をもとに、配当金額、利益金額、純資産価額の3つの要素から、どれぐらい高いか低いかを比べ、そしておおむね7掛けで評価していく。そうして評価会社と上場会社それぞれ一株50円あたりの出資に対する配当金額、利益金額、純資産価額を比べていく。

 重要なことは、会社の規模が大きくなればなるほど類似業種比準方式による評価の影響を大きく受け、同時に小会社であっても50%は類似業種比準方式による評価の影響を受けるということだ。つまり同族会社の事業承継は、業績が悪く赤字となった事業年度は利益金額がマイナスとなり、類似業種比準方式による評価が比較的低くなるため、業績が悪化したときが株式を後継者に贈与もしくは売却する絶好の機会となる。まさにピンチをチャンスにする経営判断だ。

 だが類似業種比準方式による評価が高くなる好業績の時期に株式を承継せざるを得ないとすればどうするのか。そこは様々な節税策を駆使することになる。例えばポピュラーなものとしては持株会社を利用するやり方がある。

 まず業績が良く株価が高いときに持株会社を設立し、オーナーの相続財産を移す。そうすることで元の会社の株式は持株会社が保有する資産の一部に過ぎなくなるため、元の会社の株式が高いとしても、持株会社の株価を低く抑えることが可能となる。持株会社の株価を下げるには、資産構成や利益計画などいくつか注意する点もあるが、節税面での効果は大きい。もちろん単に株価を下げるための調整であると税務調査で判断されれば、否認される可能性も低くはない。持株会社の設立は、調査官が納得する合理的な理由を十分に検討した上で取り組むようにしたい。

2022年5号(2022/2/4)

<タックスニュース>事業再構築補助金  5次募集は2月中旬から

 新型コロナウイルスの影響で収入を減らした事業者の新分野展開などに最大1億円を補助する「事業再構築補助金」の第5回の申請受付を2月中旬に開始すると、同補助金事務局が明らかにした。同補助金は第6回以降の公募も行われるが、対象となる事業や要件が大幅に変更される予定となっている。

 事務局が1月20日に公表した応募要領によれば、第5回の申請受付期間は、2月中旬~3月24日まで。また第4回の採択結果が2月下旬~3月上旬に発表されることも併せて公表された。

 第5回公募では、これまでからの変更点として、新事業売上高10%要件の緩和が行われた。これまでは3~5年間の事業計画期間終了後、新たに取り組む事業の売上高が総売上高の10%以上となるよう求めていたが、これを「付加価値額の15%以上」でも認めることとする。また売上高が10億円以上で、事業再構築を行う事業部門の売上高が3億円以上の事業者については、「当該事業部門の売上高の10%以上」でも要件を満たすこととする。

 そのほか、補助対象経費についても見直しが行われた。補助事業の実施期間内に工場・店舗等の改修等を完了して貸工場・貸店舗等から退去することを条件に、貸工場・貸店舗等の賃借料についても補助対象経費として認める。ただし一時移転に係る費用(貸工場等の賃借料、貸工場等への移転費等)は補助対象経費総額の1/2を上限とする。また事業再構築への一定のニーズがあることを踏まえ、農事組合法人が対象法人に追加された。

 事業再構築補助金は、2020年10月以降の連続する6カ月のうち、任意の3月の売上高がコロナ以前の同3カ月に比べて1割以上減少している事業者を対象に、(1)新分野展開、(2)事業転換、(3)業種転換、(4)業態転換、(5)事業再編――にかかる費用の3分の2を補助するもの。複数回の交付を受けることはできないが、採択結果で不交付となれば2度目の申請が可能だ。

 事業再構築補助金は、補助金を用いた設備投資にかかる税負担を軽減する「圧縮記帳」の対象だ。

 国や自治体から交付された補助金は会社の「益金」として、法人税の対象になる。額面でたとえ100万円の補助金を受け取れたとしても全額は自由にできず、その一部はもとから税金として納める分が含まれていることになる。しかし機械設備を取得するという目的で受け取った補助金にすぐに法人税がかかると、設備を買った後に手元に納税資金が残らず、経営が苦しくなる恐れが生じる。中小企業を支援するという補助金の趣旨に反するため、補助金で固定資産を取得したときには、圧縮記帳と呼ばれる税務上の特殊な処理を行うことが認められている。具体的には、設備の取得価額から補助分を差し引いて、その年度の利益から除外することが可能だ。つまり80万円の補助金を使って100万円の機械を買ったなら、取得価額はその差額である20万円となる。このような特殊な処理によって、投資年度にかかる法人税負担を抑えられる。補助金によって得た利益を実態より「圧縮」するというわけだ。

 事業再構築補助金についても、設備投資にかかった費用を圧縮記帳することができる。一方で技術導入費や専門家経費といった固定資産取得以外の使い方については圧縮記帳できないため注意したい。

 なお圧縮記帳はあくまで課税の繰り延べに過ぎず、税負担がトータルで減るわけではない。取得価額が減るということは年々の減価償却で損金にできる額が減ることを意味し、2年目以降は圧縮記帳をしない場合より法人税負担が重くなってしまう。トータルでみれば繰り延べをしてもしなくても法人税負担は同額となり、圧縮記帳をするかどうかは任意であるため、自社の状況に応じた選択をしたい。

<タックスワンポイント>相続税の計算時  債務控除もお忘れなく

 相続税を計算するに当たっては、預貯金や不動産などプラスの財産評価ばかりに意識が集中してしまい、マイナスの財産である債務の控除についてはおざなりになりがちだ。葬儀費用などは、その時の慌ただしさに流されて、いざ相続税の計算をしようとしたときに「領収書が見当たりません」といったケースも多く見られる。

 相続税額は、預貯金や不動産などの相続財産の課税評価額から、被相続人の残した債務と被相続人の葬式にかかった費用を控除して計算する。債務控除のための証拠資料は銀行の残高証明書がベストだが、実務としては単なるメモ書きであっても認められる。ただ、債務があることは確実でも、その金額が曖昧であるときは、現況で「確実」と認められる範囲の金額だけが控除される。

 債務となる代表格は住宅取得に伴う借入金や未払金だが、ここで忘れがちなのが地方税の住民税と固定資産税だ。これらは毎年1月1日を基準に賦課され、その後に決定通知書と納付書が届くので取りこぼしのないようにしたい。

 このほか、親子の間での貸し借りも盲点だ。子どもが父親に金を貸していて、返済せずに父親が他界してしまった場合、第三者との貸し借りのように契約書等があれば、債務控除の対象とすることができる。逆に言えば、契約書もなく「なあなあ」になっている親子の貸し借りは単なる贈与と判断され、債務控除として認められることはない。なお契約書のあるしっかりとした「貸し借り」を相続した際には、債権債務関係は民法上の「混同」により消滅することになる。

 最後に連帯保証債務について。連帯保証は非常に大きな責任を伴うものだが、残念ながら債務控除の対象とするのは難しい。債務控除は相続の発生時に債務が存在する必要があるためだ。

2022年4号(2022/1/28)

<タックスニュース>もっと我々から税金を取って! 米富裕層らが公開書簡

 世界の100人を超える富裕層が、世界経済フォーラムに参加している政治家や財界人宛てに「富裕税」の導入を求める公開書簡を送った。

 書簡を送ったのは、アニメーション映画で知られるウォルト・ディズニー氏の一族のアビゲイル・ディズニー氏など102人。世界経済フォーラム主催のオンライン会議「ダボス・アジェンダ」の開催に合わせて書簡を公表した。同会議は年に一度スイスのダボスで行われ、世界の富裕層や指導者層が参加する招待制のイベントだ。

 書簡のなかでパトリオティック・ミリオネアズ(愛国的な百万長者)と名乗った資産家らは、「大富豪であるわれわれは、現在の税制が公平でないことを知っている」と述べた。「世界がこの2年間に計り知れない苦しみを経験するなかで、われわれの富は増加している。しかしそれにふさわしい税金を支払っているといえる人はほとんどいない」と述べ、「金持ちをより金持ちにするために意図的に作られたシステムを見直すべき」と主張した。

 今回署名した富裕層らの国籍の内訳は、米59人、英20人、独9人、カナダ5人、オランダ3人、デンマーク2人、オーストリア2人、ノルウェー1人、イラン1人。日本人はいなかった。

 国際NGOのオックスファムが1月17 日に発表した調査データによれば、コロナ禍の約2年間で世界の99%の人が収入を減らした一方で、世界で最も裕福な10人の資産は倍増したという。10人はいずれも今回の書簡に名を連ねていない。

 なおアビゲイル・ディズニー氏らは2016年にも、年収約7500万円以上の高所得者に対して住民税を増税するよう要求する公開書簡を打ち出している。

<タックスワンポイント>売却予定の土地を相続する際の注意点 契約前か後かで税負担が激変

 相続が発生すると、亡くなった人が持っていた資産には相続財産としての評価が付けられる。その価額に応じて、遺産の取得者には相続税が課されることになる。財産の評価ルールは、国税庁の規定した「財産評価基本通達」により、現金なら金額がそのまま評価額になるが、それ以外は財産の種類によって詳細に算定方法が定められている。

 評価方法は財産の種類によって異なるが、例えば相続財産のなかでも大きな割合を占める「土地」は、原則的に相続税路線価と呼ばれるものに沿って評価される。相続税路線価は、国土交通省が毎年発表する公示地価などを基に導き出された、いわば相続税の評価専用の査定額だ。相場としては公示地価の8割程度といわれ、その公示地価も実売価格よりは低くなる傾向にあるので、土地に付けられる相続財産としての評価額は、実際に売却する時の価格よりは相当低くなると言っていいだろう。

 だが土地の評価については、相続人の税負担を大きく増加させかねない例外規定が設けられている点に注意したい。というのは、相続が発生した時点、つまり土地の所有者が亡くなった時点で土地の売却がすでに決まっている時には、土地の評価額を相続税路線価ではなく、契約上の売却金額に従って評価するというルールがあるのだ。これは相続によって受け継いだのが土地そのものではなく、土地の売却金額を請求する権利だとみなす考え方による。前述したように実売価格に比べて相続税路線価は圧倒的に低い。逆にいえば、売買契約を結んだ土地について相続が発生すると、同じ土地であるにもかかわらず、税負担だけが跳ね上がってしまうということになる。ルールと言ってしまえばそれまでだが、納税者としては腑に落ちない話だ。

 過去には、資産家の残した売却予定の約3千平方メートルの土地について、死亡の「2日前」に売買契約が解消されたというケースがあった。その結果、実売価格であれば22億円で評価されるはずだったところが相続税路線価に基づく9億円にまで下がったのだという。だがこの"節税策"はうまくいかず、国税局は「死後の契約解消を生前と偽り、税逃れを行った」として重加算税を認定し、約8億円の追徴課税を決定したそうだ。

 土地の値段は短い間にも変動し、買い主がいつ現れるかも分からないため、売り時と判断した時に売るのが鉄則だ。そのため、いつ発生するか分からない相続を理由に売却を控えるのは良い判断とは言えないかもしれない。しかし契約が成立してから実際の金銭の授受が行われるまでの間に、もし相続が発生してしまうと、思わぬ税負担が発生するリスクがあることは頭の片隅に入れておいて損はないだろう。

2022年3号(2022/1/21)

<タックスニュース>パートナーシップ構築宣言が賃上げ税制の要件に 下請けイジメ対策に期待

 政府は中小企業などが取引先から不当な取引や対応を強いられることを防ぐ「下請け対策」を強化している。このうちの一つに、企業に取引適正化に努めることを宣言してもらう「パートナーシップ構築宣言」の仕組みがある。2022年度税制改正で強化された「賃上げ税制」で優遇が受けられる要件としても盛り込まれるなど、この宣言の広がりを促す流れが強まってきている。

 経済状況が悪化すると、大企業などの元請け企業が中小企業などの下請け企業に対し取引価格の引き下げを行うことなどが起きやすくなる。新型コロナ禍でそうしたことを防ぐためとして政府や経済団体は20年6月、不当な取引をしないことやサプライチェーン全体での協力関係を強化するなどといったことを企業に公式に宣言してもらう「パートナーシップ構築宣言」の仕組みを創設した。宣言は例えば「価格の決定方法について不合理な原価の値下げ要請は行わない。取引価格の決定に当たっては、下請け企業から協議の申入れがあった場合には協議に応じる」といった内容で、各企業の宣言内容は専用ポータルサイト上で公表される。宣言数は徐々に増えてきており、22年1月時点で4600社以上となっている。

 取り組みは機運醸成が目的で、宣言後に国が監督や指摘をすることはないが、事業再構築補助金やものづくり補助金などの審査で加点措置が受けられるというメリットもある。また、22年度税制改正においては、賃上げにより税制優遇が受けられる「賃上げ税制」を大企業が利用する際の要件にも含まれることとなった。宣言をしている企業のうち大企業は1割にとどまっていることから、国は制度活用を促したい考えだ。

 一方では拘束力のない制度だけに、「政府は宣言内容を守っていない企業名を公表してほしい」などと、中小企業団体などからは実効性を担保するよう求める声も上がっている。

<タックスワンポイント>相続情報証明書に放棄した家族は反映されず 諸々の手続きに利用が可能

 法定相続情報証明制度は、相続手続の際に必要となるさまざまな情報を紙1枚にまとめることができる制度のことだ。2017年にスタートし、今では税務申告といった役所の手続きだけでなく、金融機関での口座解約の際にも使えるようになっている。

 かつて親や配偶者が死亡したときには、相続人は不動産登記の変更や相続税の申告、銀行口座の解約などのため、大量の戸籍書類一式をそろえて、相続対象となる不動産を管轄する各自治体の法務局や預金などのある金融機関ごとに提出しなければならなかった。そこで相続情報証明書制度では、全国の登記所のいずれかに相続人全員分の本籍、住所、生年月日、続柄、法定相続分などの情報をそろえて提出すれば、偽造防止措置が施された法定相続情報の一覧図の写しが発行されることとなった。以降の手続きは法務省の発行する写しを利用すれば各種の手続きにかかる手間が省けるわけだ。

 証明書には決まった書式などはなく、被相続人と法定相続人全員の関係がひと目で分かるよう相続人自身が一覧図を作成し、それを法務局で確認してもらう形となる。この際、それぞれの住所は任意記載とされているものの、証明書を様々な手続きで利用していくことを考えると、住所もあったほうが便利だろう。また証明書に記載される被相続人と相続人の関係については、「長男」「長女」「養子」でなく、大まかに「子」としても証明書として不備はないが、こと相続税申告の添付書類として使うつもりなら、なるべく詳しい間柄を記載するようにしたい。

 証明書を活用する上で覚えておきたいのが、証明書は戸籍謄本に基づいて内容の正しさを保証するものなので、戸籍のない人、つまり日本国籍を持たない外国人などが関係者にいる時は、証明書を利用することはできないという点だ。さらに相続人のなかに相続放棄をした人がいても、証明書の一覧図では他の人同様、通常の法定相続人として記載されてしまうため、そうしたケースでも証明書を使うことができない。いろいろと便利な制度だが、万能ではないということを頭に入れておきたい。

2022年2号(2022/1/14)

<タックスニュース>税務調査が厳格化 「後出し経費」が不可に

 2021年12月24日に閣議決定した22年度税制改正大綱では、税務調査での「後出し経費」の規制が見直された。また帳簿の不備に対して追徴課税を上乗せするペナルティーも盛り込まれ、納税者にとってはさらに税務調査が厳しくなることを意味する。

 税務調査の場面では、仮装・隠蔽や無申告を指摘された納税者が、それまで申告していなかった簿外経費を持ち出して所得を減らそうとする“後出し”をすることが少なくなかった。

 こうした簿外経費を大綱では、「適正な記帳や申告が行われていない納税者については、真実の所得把握に係る税務当局の執行コストが多大で、行政制裁を適用する際の立証に困難を伴う」として、簿外経費の“後出し”で「悪質な納税者を利するような事例も生じている」ことから、厳格化に踏み切った。23年からは、仮装・隠蔽・無申告のいずれかがあった年の確定申告書に記載されなかった経費については、帳簿書類などにより費用が生じたこと、支出先の相手先が明らかであり反面調査によって支出が確かめられることなどの条件を満たす場合を除いては、原則として損金にできないこととされた。

 また過少申告加算税および無申告加算税については、税務調査時に調査官から求められた帳簿を提出できなかったり、売上金額や収入金額の記帳が不十分だったりしたときには、通常の過少申告加算税や無申告加算税の額に、ペナルティーが加算される見直しが盛り込まれた。

 具体的には、帳簿を提出できないか、提出したとしても売上金額または収入金額の2分の1以上が記載されていなかったときには本則の加算税に10%が上乗せされる。たとえ提出したとしても、売上金額または収入金額の3分の1以上が記載されていなかったときは5%が上乗せされるというもの。24年1月以降に法定申告期限が到来する国税に適用される。

<タックスワンポイント>消費税の還付請求に当局の目 入金後は高確率で調査?

 税務当局は消費税の調査にこれまで以上に力を入れている。2019年に消費税率が本則10%に引き上げられて還付を受ける際の“利ざや”が増えたことで、悪質な不正還付が絶えないためだ。また故意でなくとも仕入税額控除の計算ミスは多く、実に調査に入ったほぼ半数が何らかの非違を指摘されているという。

 特に、消費税の還付は、国側からすればせっかく集めた税金を持っていかれる制度だけに、税務署のチェックも厳しい。還付申告の際は一分の隙もないよう十分に気を付けたい。

 消費税の還付申告では、「消費税の還付申告に関する明細書」を作成することになる。この明細書には、還付になった「主な理由」を書き込む欄がある。「固定資産の購入」か「免税取引の割合が高い」または「その他」を選ぶことになるが、「その他」の場合、空欄のまま出すのは絶対に避けたい。なぜなら、必ずといっていいほど税務署側の入念な“確認”を受けるためだ。

 税務署に照会を求められたとき、あいまいな理由や空欄ではスムーズに還付が受けられない可能性がある。気になるのは、この還付申告による税務署側からの接触だ。本格的な税務調査になってしまう場合と、簡単な書類チェックだけで済んでしまう場合がある。還付がすんなり受けられたからといって油断は禁物だ。還付後に税務調査になるケースも多々ある。

 税務調査に発展するかどうかは、前回調査を受けてからの間隔と、還付の額によるところが大きいが、還付の理由に関する請求書などはすぐに示せるようにしておくことが肝要だ。還付額が大きければ、会社の資金繰りに充てたいところ。その際は早めの申告を心掛けたい。

2022年1号(2022/1/7)

<タックスニュース>自然災害の準備金 無税枠10%に拡充

 損害保険会社が大規模自然災害に備えて積み立てる「異常危険準備金」について、無税で積み立てられる割合が現行の6%から10%に引き上げられる。12月10日に決定した2022年度税制改正大綱に盛り込まれた。自然災害が多発していることを受け、将来の円滑な支払いのため税制により積み立てを促す。

 異常危険準備金は損保会社が保険料収入の一部を将来の支払いに備えて積み立てているもので、積立金は法人税の課税対象となっている。現行制度では、保険料収入のうち本則の2%に特例として4%を上乗せした6%を無税で積み立てられるようになっている。

 一方で、地球温暖化などを受けた近年の大規模災害の多発により積立金は減少し、損保業界は無税枠の拡充を要望していた。日本損害保険協会によると、18年7月の豪雨災害や翌19年の関東・東北を中心とした台風19号による被害で、支払った保険金の額は2年連続で1兆円を超えた。こうしたことを受けて将来の支払いに支障が生じる事態を防ぐため、今回の税制改正では22年度から3年間の時限措置として、台風、洪水といった風水害、火災を対象に、無税で積み立てられる割合を6%から10%に引き上げる。

 特例が適用されるのは、無税で積み立てる準備金の残高が年度の保険料収入の30%に達するまで。損保業界はこの上限を40%に拡充することも要望していたが、上限は維持された。

<タックスワンポイント>国税当局も注視するメルカリ所得税務調査は1年間で200件超

 メルカリやヤフーといったネットオークションの市場規模は、経済産業省の調査によれば1兆円を超えるという。雑貨や古本だけでなく貴金属や自動車などの高級品が売られていることも珍しくなく、捨てるよりマシとネットオークションを利用して不要になった日用品を売った経験のある人も少なくないだろう。スマホアプリなどから簡単に売買のやり取りができる気軽さもあり、その市場規模はさらに拡大しつつある。

 ネットオークションであろうがフリーマーケットであろうが、一定の儲けが出ているのなら確定申告を行い、所得に応じた税金を納めなければならない。ただし例外もあり、実際にはネットオークションで出品者となった経験のあるほとんどの人が以下のルールに該当するはずだ。

 「資産の譲渡のうち、家具、じゅう器(家庭用の道具)、通勤用の自動車、衣服などの生活に通常必要な動産の売却については、所得税を課さない」

 つまり日用品の処分としてオークションを使っている分には、それがいくらで売れようが、所得税を課されることはない。ただしオークションで売ることを前提として商品を仕入れたり、継続的に物を売って利益を得たりしていると、税務署から否認される可能性はないとは言えない。なお、「貴金属や宝石、書画、骨董(こっとう)など、1個あるいは1組が30万円を超えるもの」の売却は譲渡所得が発生するという規定もあるので、家にあるものなら何でも非課税というわけではないことを覚えておきたい。

 気になるのは、原則として非課税である通勤用の車が、金額基準の30万円を超える額で売れた時はどうなるかということ。そこは30万円超であっても通勤用のマイカーであれば非課税だが、フェラーリやベントレーといった高級車であれば通勤用に使っていたとしてもぜいたく品として課税する、という運用がされているようだ。

 市場が大きくなるということは、そこに『儲け』があることを意味するわけで、ネットオークションによる所得には課税当局の目が光っていることも忘れてはならない。各国税局にはインターネット取引を担当する「電子商取引専門調査チーム」という専担部署があり、メルカリやヤフオクといったネットオークションで生じた所得を捕捉しようと日々監視を続けている。2020年度には、コロナ禍で税務調査が減少するなかでもネットオークションを対象に208件の税務調査が実施された。

 もっともメルカリなどで日常的に利益を上げていても、よほどの“人気業者”でなければ税務調査は来ないかもしれない。ネットオークション絡みで税務調査を受けた約200人の1件当たりの申告漏れ所得金額は1166万円だという。